地元の福祉現場の7割が反発!?
6月、地元紙熊本日日新聞の記者・森本修代氏が批判的な立場から『赤ちゃんポストの真実』(小学館)を出版した。森本氏は、地元の福祉・医療関係者や、預けられた子ども、預け入れた親、預けられた子どもを育てる養親など異なる立場の当事者に取材した上で、過去12年に144人(*2020年5月の慈恵病院発表で150人に更新)の赤ちゃんが預けられた一方で子どもの遺棄、殺害、虐待、中絶の件数の減少などの関連性が認められないとの調査報告書などを踏まえ、赤ちゃんポストには設置効果がなかったのではないか、との疑義を示した。
本書に関して、7月末、慈恵病院副院長で蓮田氏の長男健氏が主として取材手法に問題があると反論の記者会見を開いた。そして「本書と当院は一切の関わりがないことを明らかにし、また、今後、同様の一方的な報道がなされることをけん制したい」と集まった報道各社に会見の目的を説明した。
実際に中身を読んでみると、何より驚くのは森本氏の取材に応じた地元・熊本の医療・福祉関係者たちの多くがゆりかごや慈恵病院に対して反発を抱いていることだ。読み進めていくと、熊本という地方都市に突然ゆりかごが出現したために、地元の福祉関係者たちが混乱し、翻弄され、疲弊したことが伝わってくる。というのも、上記にも触れた通り、ゆりかごに預け入れられた赤ちゃんは、熊本市の児相の保護下になる(開設当時は熊本県児相)。児相は親の残した遺留物や周辺の目撃情報などをもとに親を捜索し、身元がわかれば親の居住地の児童相談所に案件を引き継ぐ。また、親の身元がわからない場合は熊本県下の乳児院(原則として乳児)や児童養護施設(原則として18歳まで)が受け入れることになる。ゆりかごに預けられた子どもの数だけ児相の仕事が増え、また、熊本の施設で育つ子どもの数も増えたにもかかわらず、慈恵病院だけに日が当たり、現場の苦悩はすくい取られることがないというのだ。
筆者はゆりかごが開設されて10年の節目の2017年に、慈恵病院、法学者、慈恵病院を通して特別養子縁組をした家族の3者を取材した。だが、熊本市や児童相談所、乳児院には取材していなかったため、地元熊本の福祉現場の人たちが慈恵病院にこれほどまで反発を募らせていたことをこの本で知った。そして今回再び熊本で取材をしてみると、熊本市の児童養護関係者の7割は反対、という話を聞いた。これらの批判や慈恵病院側の反論については改めて取材を深めたい。