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「結婚に愛はありませんでした」 “中国人毒婦”は、なぜ夫にインスリンを大量投与したのか

『中国人「毒婦」の告白』#2

2020/11/12
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数百万円という料金を即金で

「やはり、このあたりはどこかに勤めていないと現金収入が少なく、農業だけではやっていけない。茂さんは、農閑期に左官業などをやっていたが、どちらかというとそんなに器用でもないので、それほど稼ぎもなかったのではないか。現金収入がなければ、当然お金のことに細かくならざるをえない。特に茂さんの母親は、嫁に厳しく、金の出入りにも細かかったので、前の嫁さんは嫌気がさして出て行ってしまったのだ」(鈴木家周辺の住人)

 当然茂は、新たな結婚相手を求めて、東奔西走したようだ。とはいえ40歳過ぎた農家の長男に嫁の来てはなかなか見つからなかった。そんな折、人づてに、中国人女性とのお見合いツアーの話を紹介される。

「茂さんは、そんなペラペラ喋る人ではない。どちらかというと無口。まあそこそこまじめな性格だったと思いますよ。逆をいえば、そんなに機転がきくとか融通がきくとかの性格ではない。だから、中国人女性とのお見合い話にも乗ったのだと思う。そうそう、そのお見合いツアーだが、事前に女性の写真を何枚か見た茂さんは、詩織さんをいたく気に入り、中国に行く前から、相手は詩織さんと決めていたようだ。それに、ツアーには近辺からも何人か参加しているが、数100万円という料金を即金で払ったのは茂さんだけだったというよ。それほど詩織さんとの結婚に積極的だったということだ。よほど嫁が欲しかったのだろうね。その中国人の花嫁は秋に来日したので当初は秋子さんと名づけられ、いつもニコニコして愛想がいいので皆に秋ちゃん、秋ちゃんと呼ばれ可愛がられてたな」(前出・鈴木家周辺の住人)

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 それにしても、結婚する予定の男と女が空港で出会いながら、最初は良く判らなかったという事実には驚く。だが、日中間の結婚の場合、こうしたケースはままあるようなのだ。

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 かつて日中間の国際結婚斡旋業に携わっていた者によると、手順は、おおむね次のようになる。

 まず日本側男性で結婚を望むものは事前に相手の写真などを見せてもらい、気に入れば斡旋業者に300万円前後の結納代込みのツアー料金を支払い中国に行く。

「ツアーは、3日から4日。見合いしてお互いに気に入ると、親にも会って、その場で婚約成立、という実にスピーディーな方法をとります。場合によっては向こうの親や親族と、簡単な結婚式まで済ませてしまうケースもあります。そうして偽装結婚ではないとする書類やさまざまの手続きをする。これは、日中両方の政府に提出しなければならないので、許可が下りるまで数ヶ月かかります。その後来日、正式に結婚するという段取りになります」

 茂のケースも現地でスピード結婚式をあげ、手続き完了後の来日を約束したという。簡略というか杜撰と呼ぶべきか、1年前に会ったときの印象が男女ともあやふやになってしまうのも無理はない。