2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。
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「結婚に愛はありませんでした」
〈今日、風邪薬と偽って睡眠薬を飲ませてあるから、茂さんは(注射の)痛みを感じないと思います。自分に勇気をつけて2階にあがりました。大きな鼾が聞こえるので茂さんが熟睡しているのがわかります。ビデオプレーヤーの時刻は24:50(原文ママ)と表示されています。
“(茂さん)どうして私を追い詰めるのですか。どうして私に怖いことをさせようとするのですか。平和に離婚してくれればいいじゃないですか。あなたは私から最愛の息子を奪いとろうとしました。なぜ私を苦しめなければならないのですか”
熟睡している夫に、私は泣きながら心の中でつぶやいていました。声もたてずに泣き続けました。それでも注射をする決心がつかず、涙を流したまま1階に戻りました。
長時間泣いたので疲れてしまいました。“神様よ!神様よ!助けてください!”
ドアを開けて夜空をみあげるとダイヤモンドのように星が瞬いていました。私は星空に答えを求めてみましたが悲しみの嘆きが星空のほうから流れてきました。
胸がひじょうに痛くなりました。“お前に注射したくないが、しかし、注射をせざるを得ない気持ちを、お前はわかってくれますか。お前に注射しなければ私は子どもと会うことができなくなります。私はお前を恨んでいます。お前は私を追い詰めています”〉
詩織が大量のインスリン製剤を夫・茂に投与する寸前の生々しい心境描写である。
結婚して実質10年、前記したように、2人の男の子まで生まれていたのに、夫婦間の縺れを何故、犯罪という最悪の形で決着をつけざるを得なかったのか。殺してしまいたいほどの憎悪が何故生まれてしまったのか。
とりあえず詩織の手記で来日時までさかのぼろう。