勝敗を分けた「郵便選挙」
トランプ大統領への極めつきの打撃となったのが郵便投票をめぐるバイデン氏との違いだ。トランプ氏は選挙戦を通じ、郵便投票を「不正の温床」などと批判し、支持者に郵便投票を止めるよう訴えてきた。これに対し、バイデン氏はコロナ感染対策を強調し、支持者に郵便投票の大切さを説いてきた。
この結果、過去最多の約6500万人に及んだ郵便投票の大半は、民主党支持者の票となった。大統領選の雌雄を決したペンシルベニア州では、郵便投票の約4分の3がバイデン氏に、残りの約4分の1がトランプ氏に投じられたとされる。
このため、同州を選挙区とする共和党議員はCNNの番組に出演し、トランプ大統領が共和党支持者にも郵便投票を訴えれば、共和党議員ももっと楽な選挙戦ができていたはずと嘆いていた。
いずれにせよ、バイデン氏は開票作業の最終盤で、過去最多の郵便投票の集計が進むにつれ、ジョージア州に続き、ペンシルベニア州などでも猛追して逆転、大統領の座を射止めた。
人種差別問題もコロナと結びついた
トランプ氏は、コロナ対策に加え、人種差別問題でアフリカ系アメリカ人の怒りに火を付け、彼らを投票に向かわせた。
特に5月に、米ミネソタ州ミネアポリスで、警官に膝で首を絞められて死亡したジョージ・フロイドさんの事件を受けて、全米で2600万人が抗議活動に繰り出したと推定されている。これに対し、トランプ氏は、1968年の大統領選でニクソン陣営が「法と秩序」という戦略を掲げて勝利したことを再現しようとした。
しかし、こうしたトランプ氏の高圧姿勢はアフリカ系アメリカ人のみならず、有色人種や多文化主義者、LGBT、さらには若者を立ち上がらせ、反トランプに向かわせた。バイデン氏が副大統領候補に選んだカマラ・ハリス氏は初の女性で父がジャマイカ、母がインド出身という移民の子。アメリカ社会の少数派(マイノリティー)の集票の受け皿になった。
その一方、トランプ氏は有色人種の台頭で恐怖を抱く地方の白人票や経済重視者、聖書の教えに忠実な信仰深いキリスト教福音派(エバンジェリカル)を主にターゲットにしてきた。
また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の5月28日時点のデータによると、人口1万人あたりの人種別の新型コロナ感染者数はヒスパニック73人、黒人62人、白人23人となっており、人種的少数派が新型コロナの被害をより多く受けていることが裏付けられている。このほかにも、アメリカ国内で統計などから予想される死者数を実際の死者数が上回る「超過死亡」をめぐるCDCのデータでも、黒人やヒスパニックは白人と比べ、人口に占める感染者の比率や感染後の致死率が高いことが分かっている。