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「これからは休みはない。月月火水木金金だ」 福島1F“百機タンク”設置作業は「灼熱地獄」

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』より#15

2020/11/22

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, ライフスタイル

note

 サリーに制御盤が持ち込まれ、錆を防ぐための塗装が行われると、汚染水処理の巨大な装置が運ばれた。目測でおよそ10メートルの高さで、“のっぽのサリー”と東芝の社員が冗談を飛ばしていた理由が納得できた。作業はトラブルもなく無事に終了した。すぐに試運転が開始され、汚染水がサリーに流された。翌日、テレビや新聞で試運転が報じられると、翌日のミーティングで現場責任者が「テレビで報道されたようにサリーは無事完成しました」と大喜びしていた。

 責任者が名前を出したテレビ局の報道部には、私の友人がいる。その日の作業が終わったあと、シェルターからすぐ電話をかけた。

「あんたのとこのニュース、現場で話題になってるよ。でもね……」

 電話したのは報道されなかった部分を伝えるためだった。サリーに汚染水が流されたあと、追加工事が行われ、作業員がかなりの被曝をしたからだ。人間である以上、100パーセント完璧な作業はあり得ない。が、試運転を急ぐあまり、汚染水を流した後、現場に作業員を入れるのは本末転倒だろう。そのうえ、この作業には私のような無能な人間も出動させられた。私自身はどれだけ被曝してもかまわない。現場をみられるなら喜んでどこでも出かける。が、何度も掃除した床を掃くだけの作業に、他の作業員がかり出されるのをみると無性に腹が立った。汚染水が流れているすぐ脇で、ただ時間が過ぎるのを待ち、積算被曝量が無駄に増えるのだ。

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 まだ20代の責任者に詰め寄ったが、「もともと決まっているシフトだからかえられねぇんす」と言われた。頭に血が上った私は傍にあった段ボールを蹴飛ばし、「ふざけるなよ。意味ないじゃん。これで現場から出されちゃったらどうするんだよ。必要のない人間まで現場に出すことねぇだろう」と毒づいた。

※写真はイメージ ©iStock.com

 私の部署の被曝限度は25ミリシーベルトである。ホールボディカウンターを使って内部被曝を計測するのは月に1回で、その分を考慮し20ミリが管理値で、これを超えると放射線業務停止命令が出され、1Fには入れない。この日の被曝量は1時間の作業で0・6ミリだから、普段の10倍だ。被曝量が多いと分かっていたからだろう、この日の作業は2度に分けて行われた。シェルターでの休憩中、作業員の一人がAPD(線量計)を置いていったのは、限度を超え現場に出られなくなるのが嫌だったからだ。一度目の作業は彼もAPDを携帯していた。まったく被曝していないと不正がばれるため、シェルターに戻り、その数値をみた後、休憩時間にAPDを自分の鞄に隠したのだ。