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「先生、これがいわゆるラドン効果でしょうか?」
有名な玉川温泉など、微量の放射線は健康にいい、という話もある。これまでの日常生活についての問診を受け、先生は冷静に診断を下した。
「運動不足が解消されたからでしょう」
隣の女性看護師が苦笑していた。
放射能より世論の弊害
熱中症で倒れる作業員が続発すると、「作業員の安全を確保せよ」と、マスコミは連日のように騒ぎたてた。政治の世界も同様で、Jヴィレッジやいわき市を視察した議員は少なくない。が、東電の案内でJヴィレッジを視察したところで、現場の実態が分かるはずもない。その程度の実感でヒステリックに「作業員を守ろう」と正論を振りかざしても、作業の足枷になるだけだ。実際、線量が低く、全面マスクが不要な場合でも臨機応変な対応がとれない。東電やプラントメーカーにとって怖いのは、放射能より世論だ。
百機タンクの設置でも、その弊害がもろに出ていた。汚染水処理施設で水漏れが多発し、政治家たちが騒ぎ立てたため、タンクの設置が済んだ後、装置全体に空気を送り込み、圧力をかけて漏れがないのをテストしなければならなくなったのだ。
「まったく迷惑な話だ。もし爆発したらあたり一面が吹っ飛ぶ」
素人の私には実感がないが、メーカーの人間はその危険性をなんども強調した。
「そんときは俺たち、敷地の外から双眼鏡で見てるんで、点検するのはよろしく」
冗談とは思うが、下請け作業員にとっては笑えないジョークだ。