「なんか雰囲気がおかしくなってきていないか」

 全国紙記者(50代、中道派)は最近、こんなメッセージを友人からもらったという。

「友人は北朝鮮が韓国を攻撃することはない、戦争になんてなるわけがないという信念のようなものを持っているムンパ(文在寅大統領支持者)。3日の核実験前に会った時に、『まさかの有事に備えて水や保存食を準備しておいたほうがいい』と話すと『そんなことがあるわけがない』と怒って、しばらく連絡をとっていなかったんです。それが、この間(9月3日)の実験で北朝鮮の核の威力が今までよりも増しているとの報道を見て、“危機感”を覚えたようです」

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「朝鮮半島危機」にも、まるで他人事のような雰囲気さえ漂っていた韓国社会にも、9月3日の北朝鮮の核実験から“危機感”のさざ波が見え始めている。

韓国近郊で行われた軍事演習 ©getty

「戦争カバン買いました!」

 北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験をした8月29日には、「戦争カバン買いました!」という動画がユーチューブにアップされた。これは、韓国のタレントが通称「戦争カバン」と呼ばれる非常食などが入ったリュックカバンの中身を紹介したもの。

 このカバン、価格は10万~30万ウォン(約1万~3万円)台まであり、動画では23万ウォン(約2万3000円)のカバンが紹介されていた。カバンの中には、非常食の固形ビビンパッやパウンドケーキのほか居場所を知らせるホイッスルやマスクなどが入っている。「タレントの売名行為」、「戦争を煽っている」などと批判する声も聞かれたが、3日の核実験後からアクセス数はぐんと増え、48万回(11日現在)を超える人気動画になっている。 

 また、昨年9月に起きた慶州地震の後、昨年末に韓国の人気ユーチューバーがアップした動画「30万ウォンの日本の地震に備えた生存カバンには何が入っているのか!?」にも再びアクセスが集まっていて、携帯用ラジオの売れ行きも9月に入ってから急増(8月末から40%増)しているという。

江南人が有事に備え始めた

 日常会話でも北朝鮮問題が話題になり、犬の散歩で時々すれ違い話を交していたような人からも、「何か準備している? 日本ではどう報道されているの?」と訊かれるようになった。

 ソウル市の江南に住む40代の会社員は毎週日曜日に通う教会でこんな話になったという。

「誰からともなく今の北朝鮮情勢の話になりました。駐韓米軍で韓国兵として勤務している息子さんが持ってきた軍用保存食をそのまま保管していると話す人がいて驚いていたら、他にも、もしもに備えているという人がいてびっくりしました。江南の住人の中には(有事に)準備している人もいるようです」

「江南」は、ソウル市内を横断する漢江の南にある「富」の象徴地域。富裕層が多く住み、保守派が多勢であることでも知られる。

 この話を50代の主婦にすると、「江南人が準備しているの??? それじゃあ、やっぱり準備しないとまずいかも。まあ、戦争にはならないと思うけど、情報は彼ら(江南)のほうが早いだろうから」。そう言って、真顔になった。