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ロペスはただの“助っ人”じゃない……ベイスターズを去る「背番号2」が教えてくれたこと

文春野球コラム 日本シリーズ2020

2020/11/21
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ロペスはただの「助っ人」なんかじゃない

 2018年、ベイスターズはそれまで2年連続で出場していたCSの道を断たれた。ベイスターズの戦いを記録したドキュメンタリーフィルム『FOR REAL』は、他のどの年よりも鬱々として、生々しかった。多くの選手が同時に壁にぶつかった。リリーフに失敗した守護神をカメラが追う。作り手としては是が非でも押さえておきたいシーンだったのだろう。その時ロペスが、いつもは優しく穏やかなロペスが声を荒げた。「カメラを止めろ!」「ヤスアキの気持ちを考えろ!」。緊迫した空気が画面上からも伝わってくる。取材中に怒られた自分に置き換えて、私まで震えた。

『FOR REAL』監督の辻本和夫さんはのちのインタビューの中でこう話していた。「翌日ロペスから『昨日は厳しい言い方をして悪かった。撮影することはあなたの仕事だとわかっているし、記録することはリスペクトしている』と、声をかけられた」。自分以外の誰かのために怒ることは難しい、そして自分が発した怒りを振り返り謝ることはもっと難しい。ロペスはただの「助っ人」なんかじゃないと、今まで考えないようにしていた「ロペスがいなくなったらどうなってしまうんだろう」という不安が頭をもたげた。

 ……本当はずっと前からそうだったのだ。2017年5月の中日戦で、ストライク判定に納得いかない梶谷が球審に詰め寄る。何を言ってるかはわからないけど、カジと球審の距離はどんどん近くなり、ついに球審がマスクに手をかけた。その時どこからともなくやってきた。ロペスだ。二人の間にさりげなく入り、梶谷を自然とその場から逃がす。ロペスにしかできないことだ。キャプテン筒香とも違う距離感で、いつもチームメイトを見ているロペス。

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 2016年のCSファイナルステージ敗退が決まったロッカールームで、泣きじゃくる先発今永を慰めていたのもロペスだった。「この1年間、いい投球をしてきたんだから。この試合のことは忘れなさい」。「頑張れ」でも「泣くな」でもなく「忘れろ」とロペスは言った。おそらく今永はこの試合を一生忘れない。それが分かっているから、ロペスはそう言ったんだと思った。

 ロペスの音は。

©文藝春秋

ロペスの音を鳴らすのは……

 2015年「ベイスターズのような強いチームに来られてうれしい」と入団会見でロペスは言った。12球団中一度もCSに進んだことのないベイスターズを「優勝が狙えるチーム」とロペスは言った。あの時おそらく多くのファンが思った。「それはさすがに盛りすぎでは」と。

 でもあれはリップサービスでもなんでもなかったのだ。自分が来たからには強くなる、強くする。そういう決意の言葉だったことを、野球に取り組む姿勢や結果でロペスは私たちに知らしめた。

 ロペスがなぜ退団するのか、本当の理由を私は知らない。だけどもし、常にファーストベースを守りたいというロペスと、球団の考えが一致しなかったのなら、それは全てロペスが作ったことだ。選手たちはみんなロペスを見て育った。ロペスがレギュラーを追われたとするなら、そのロペスを見て育った選手たちが今、チームの中心となってベイスターズを支え始めたということだから。ロペスが目指した「ベイスターズのような強いチーム」に近づきつつあることの、それは証だから。

 そしてロペスは「ここで野球のキャリアを終えたい」というほど愛してくれた横浜の地を、自分の望む野球スタイルを貫くために離れる。簡単な安住に妥協しない、野球に対してはずっとチャモ(少年)で、エゴイストで、そういうロペスだからみんなロペスに憧れる。かっこいい。かっこよくて、さみしい。

 98年にハマスタに鳴り響いていた、ホッシーパンチの音は、優勝の音だ。ロペスの音は、優勝の音。これから選手たちが、ロペスのあの日の言葉が正しかったことを証明する。そしてロペスはきっとまた別の球団を強くするだろう。入団会見で「巨人にいたことは過去のこと」と言ったロペス。ベイスターズもいつか、ロペスにとって「過去のこと」になる。そうなった時、初めて私はロペスに「ありがとう」と言えるのかもしれない。ロペスの音を鳴らすのは、これからのベイスターズ。

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