コロナ禍の影響を受けながらも、1年納めの11月場所を迎えた大相撲。普段の生活や稽古、興行形態も異例の形に変えざるを得なかった2020年、ふたりの新大関が誕生した。

「文藝春秋」12月号では「朝乃山VS正代『次の横綱はどっちだ』」と題し、ふたりの大関に焦点を当てたのだが、3日目、早くも波乱が起きてしまった。初日の霧馬山戦で肩を痛めていた朝乃山が、まさかの休場。大関昇進3場所目にして自身初の休場となり、来たる翌場所は、これもまた初めての「カド番大関」となってしまう。今年3月に昇進した喜びもつかの間、早くも大関としての試練を迎えている。

「いざとなったら自分を見失っていた」

 2日目の相手は、幕内対戦成績が0勝2敗の照ノ富士だった。場所前のインタビューでは「苦手だとか、やりにくいとは言いたくない。言葉にすると意識に残ってしまいそうで」と口を固く結んでいたのだが、今場所も照ノ富士に力負けし、対戦成績は3連敗となってしまった。

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「7月場所で照ノ富士関に負けて帰って来た時に、親方に、『ああいう大きい相手には(立ち合い)かましていけ』と言われたんで、先の9月場所ではかまして行こうと、朝起きた時には決めていたんです。でも、土俵際まで持って行ったのに最後の一歩が出なくて……。(中略)いざとなったら自分を見失っていた。そこが自分のまだまだ弱いところです」  

7月場所は朝乃山が正代に勝利 ©時事通信社

 そう振り返りながら歯ぎしりをしていたものだった。「意識しないように、と逆に“意識してしまう”状態」とでも言うべきか――。くわえて今場所は師匠である高砂親方(元大関朝潮)の、停年退職による最後の場所でもあり、「優勝賜杯を餞(はなむけ)としたい」と、気持ちも逸ってしまっていたのだろうか。

今の朝乃山に足りないもの

 朝乃山本人によると「ついつい感情が漏れ出てしまうタイプ」だという。土俵下に控える姿から伝わってくる緊張感。敗戦後、ショックを隠さずにがっくりと落ち込むその表情。「心技体」の「心」の動きがそのままストレートに出てしまう。

「テレビカメラがあるのはわかってるんですけど、つい顔に出て『ハーッ……』となってしまうんです」

 それも朝乃山のひとつの魅力だが、これからは、ある種の「ふてぶてしさ」と燃えたぎるような気迫が欲しいところだ。

 そんな原稿を書いていた5日目、なんと正代休場のニュースが……。「白鵬、鶴竜の両横綱が休場し、朝乃山も脱落してしまった今、新大関として土俵に上がる正代のプレッシャーはいかほどか。先輩大関である貴景勝とともに、今場所の土俵を引っ張り、締めて行く立場となる」――はずだったのだが、3日目の髙安戦で左足首を負傷し、翌4日目は大栄翔の突き押しにあっさりと土俵を割った。新大関お披露目の場所での休場は、苦渋の決断、さぞ無念な選択だったことだろう。