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2020/11/20

 そして劇場版第1作の好評を得て第2作の準備が始まる。当初は「TVシリーズを何本か集めたような内容」(『カリオストロの城』作画監督の大塚康生の回想)だったというが、宮崎が監督を引き受けることになり、内容は全面的に改められた。おそらくその過程でジャケットの色も緑が選ばれたと考えられる。

ルパン三世 カリオストロの城 デジタルリマスター版(予告編)

『カリオストロの城』でルパンのジャケットが「緑」であるワケ

 どうして『カリオストロの城』では緑ジャケットを選んだのか。それは本作が『旧ルパン』で描かれたルパン三世の“その後”を描いた作品であるからだ。これは単に「設定をそう定めた」ということではない。監督の宮崎が『カリオストロの城』のルパンを、『旧ルパン』で描かれた“青年時代”を振り返る年齢になった男として描き出そうとした、ということである。

 ルパンというキャラクターはとても扱いが難しい存在だ。原作のモンキー・パンチがナンセンスやスラップスティックを好む作家のため、原作ではトリックのためのトリック(読者を驚かせるためだけに仕掛けられたトリック)がよく描かれる。そこでは、ルパンというキャラクターには盗みを行う動機などの内面は求められない。ただ、大胆な仕掛けの連続で読者を驚愕させていくための、粋な狂言回し。そのような徹底的な表層性こそが、原作のルパンの姿なのだ。

モンキー・パンチ氏 ©️文藝春秋

 しかしそこまで表層的なキャラクターを映像作品の主人公にするのは難しい。映像作品のキャラクターには、もう少しドラマを内包した内面が必要だ。そこで『旧ルパン』の大隅監督は、原作から「アンニュイ」という要素を発見し、それをルパンというキャラクターの柱に据えた。人生に退屈した男が、倦怠を吹き飛ばして、生きている実感を味わうためにギリギリのスリルに身を投じる。それがルパンという男である、というわけだ。これは、死刑になるギリギリまであえて脱獄せず、そのスリルを味わおうとする『旧ルパン』第4話「脱獄のチャンスは一度」を見ればよくわかる。

 一方で中盤以降を手掛けた高畑・宮崎コンビはそこに「アンニュイ」ではなく「ハングリー」を代入した。金はないけれど、おもしろそうなこと、刺激的なことに飢えていている青年。それは原作のルパンというより、高度成長の末期に漫画『ルパン』に熱狂した若者の姿に近い。それが『旧ルパン』の中盤以降のルパンのキャラクター像となった。

 序盤のルパンがベンツSSKというクラシックなスポーツカーを乗り回していたのに対し、中盤以降はイタリアの大衆車フィアット500を愛用するという点にもキャラクターの解釈の違いが現れている(だからキャラクター性がまた異なるその後のシリーズでルパンの車がフィアット500で定番化していくのは、若干の違和感がないでもない)。