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「反日」でなければ弾圧される社会

 70年代から80年代の韓国で生まれ育った私にとっては、この法案をみていると軍事政権時代の「国家保安法」が頭をよぎる。「国家保安法」とは、北朝鮮の脅威から「反共」国家・韓国を守るために作られた冷戦の産物であり、「反国家的」とみなされる活動を取り締まり、違反者には死刑を科すこともできた法律だ。「国民の自由や思想を抑圧する」と文在寅政権をはじめとする革新勢力が主張してきた法だが、その国家保安法と歴史歪曲禁止法案とを比較すると興味深いことが分かる。

「反国家団体やその構成員、またはその指令を受けた人の活動を称賛・鼓舞・宣伝、またはこれに同調したり、国家変乱を宣伝・扇動した人は7年以下の懲役に処する」(国家保安法 第7条)

「(日帝植民統治を擁護する)団体の活動を称賛・鼓舞、宣伝したり同調した人は3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処する」(歴史歪曲禁止法案 第6条)

「反国家団体」と「日帝植民統治擁護団体」を入れ替えれば、あまりにも似通った内容なのだ。現政権の中枢にいる人たちの中には保守政権下において国家保安法を適用され有罪判決を受けた人たちが少なくない。自由や思想の弾圧を受けてきた人たちが、権力者になった今はそれを真似して、「反日的でなければ社会の一員だと認めない」といわんばかりの「反日丸出しの法律」を制定しようとしているのだ。

「歴史歪曲禁止法」にある大きな「歪み」

 そもそも、この法案には「歴史を歪曲する人を処罰する」と言いながらも、歪曲を是正するはずの対象を日本統治時代、光州事件、セウォル号事件の3つに限定しているという大きな偏りがある。

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 韓国には未だに「朝鮮戦争は南側が誘発した」「2010年の天安沈没事件は北朝鮮の攻撃によるものではない」など、一般的には「加害者は北朝鮮」とされる事件に関して、「実は北朝鮮は悪くない」と真逆の意見をもつひとも一定数いる。しかし、この法案は彼らを一切咎めようとしていない。

朝鮮戦争は韓国が引き起こしたという意見はいまだに存在するという ©共同通信社

 なぜ、「実は日本は悪くない」というと許されず、「実は北朝鮮は悪くない」というと許されるのか。そう、「北朝鮮の存在が光州事件の背後にあるのでは」と目を向ける勢力を封殺し、朴槿恵前政権の“失政”の象徴であるセウォル号事件に疑問を投げかけることを許さない。そして、保守派率いる戦後の韓国に成長のきっかけを与えた日本の存在を徹底的に否定する……。「歴史歪曲禁止法」の根底には、そんな自分たち革新派の政権与党とは違う意見を抹殺しようとする大きな「歪み」があるのだ。