この夏、韓国で与党議員31名の名においてある法律案が提出された。「歴史歪曲禁止法」、それがその法律案のタイトルだ。A4用紙7ページほどの短い法律案だが、その内容は決して看過できるようなものではない。今後の日韓関係に与える影響は“うすっぺら”なものでは済まないだろう。

 この法案のなかみを簡単にいってしまえば、

1、1910年~1945年の日本統治時代
2、1980年の光州事件
3、2014年のセウォル号沈没事件

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 この3つの「歴史的事件」を否定、ないしは虚偽だと公の場で主張したり、遺族やその子孫の名誉を棄損するようなことがあれば、懲役刑・罰金刑に処するというものになる。新聞、TVなどのメディアやインターネット、集会などで「歴史的事実」を否定するような発言をすれば即、アウトだというのだ。

 韓国与党は10月27日、歴史歪曲を罰するこうした法案を国会で通過させる方針であることを明らかにしている。

国内に「異論」を認めない文在寅政権

 このうち、2014年 4月16日に発生したセウォル号事件については、日本でも記憶に残っている人も多いだろう。修学旅行中の高校生を含む多くの犠牲者が出た転覆・沈没事件だ。船関係者や朴槿恵前政権の初動対応の杜撰さが被害を拡大させたとも指摘されている大変痛ましい事件だったが、一方で韓国国内では現在、この事件の被害者家族に冷ややかな視線が向けられている。

大統領就任以前から「セウォル号沈没事件」の追悼式にも出席していた文在寅氏(2017年4月撮影) ©AFLO

 というのも、セウォル号沈没事件の遺族たちは6億ウォン以上の補償金を受け取り、政府の配慮により税金の免税措置を受け、大学入試特別枠などの優待措置をいくつも受けている。深刻な格差社会にあえぐ韓国では、遺族たちが市民団体化してあまりに多岐にわたる補助を得ていることに、「さすがに行き過ぎではないか」と批判的世論があるのだ。

 法案は、こうした遺族たちに対しての“度を超えた名誉棄損にあたる発言”を処罰するとしている。だが、その基準は明確でないばかりか、すでに韓国には他人の名誉を棄損すればそれを処罰する法がある。なぜ、わざわざ新しい法律まで作ってことさらセウォル号事件に関して厳罰を用意する必要があるのか。納得のいく説明はなされないままになっている。