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 また、1980年の光州事件は、『パラサイト』のソン・ガンホが主演し話題となった2017年の韓国映画『タクシー運転手』の背景となっている事件だ。

映画の背景にもなった光州事件(「タクシー運転手」Blu-ray表紙より)

 韓国の光州で、民主化を求める武装した市民たちと、戒厳令を強める軍が衝突したこの事件。韓国国内では一般的に民主化運動派と戒厳軍の衝突として理解されているが、「実は北朝鮮が特殊部隊を送り込み光州で武装暴動を起こした」など、北朝鮮が介入していたという「説」は枚挙にいとまがない。

 少なくとも現在までのところ、北朝鮮のスパイや特殊部隊が逮捕されたり、あるいは射殺されたという事件は公になったことがなく、この説の裏付けが取れたことはない。しかし、脱北者たちの証言などからその「可能性」は排除しきれないのではないかという声があるのも事実だ。今回の法案ではそうした意見をすべて“封殺”しようというのである。

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光州事件が起こった1980年、韓国は全土に「戒厳令」が出されるなど大いに揺れた ©共同通信社

日本統治時代を褒めれば“敵”

 本法律案の中でもっとも目を引くのはやはり日本統治時代に関する部分だ。実際に法案に書かれた内容は後記するが、ここでは特に第6条を確認したい。

第6条(日本の歴史否定に内応する行為)

(1) 日帝の国権侵奪と植民地統治を称賛、正当化、美化または支持したり、日帝強占期の戦争犯罪を否定、または著しく縮小・軽視することを目的にしたり、そのような活動をする日本内の団体の中で大統領令で決める団体(以下「日帝植民統治擁護団体と称する)に内応して、その団体の活動を称賛・鼓舞、宣伝したり同調した人は3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金に処する。

(2) 日帝植民統治擁護団体から金銭、物品または財産上の利益を授受・約束したり、授受・要求の目的で(1)の行為をした人は5年以下の懲役または5千万ウォン以下の罰金に処する。

 日本統治時代を正当化・美化したり、戦争犯罪を否定する日本の団体を、韓国大統領が「日帝植民統治擁護団体」と指定したら、それに内応する人を処罰すると規定されている。注目したいのは「内応」という言葉だ。

 韓国国立国語院の標準国語大辞典は、「内応」という言葉を「内部で密かに敵と通じる」と定義している。つまり、「日本の朝鮮統治を擁護する団体=敵」という図式になっており、しかも“敵認定”は韓国大統領の一存で決定されるのだ。

 もし、韓国大統領が日本の歴史研究会、財団、言論を「日帝植民統治擁護団体」と指定したら、その団体は「敵」になり、たとえ韓国人がたまたまその団体と同じ主張をしたとしても、3~5年以下の懲役または3000万~5000万ウォン以下の罰金に処されることになる。

慰安婦や徴用労働者の証言を検証することも「罪」になりかねない「歴史歪曲禁止法」。さらには当事者が処罰を望まなくても起訴ができるという ©文藝春秋

 さらに別の条項では、独立有功者、戦争犯罪被害者の名誉を毀損した場合、告訴がなくても、当事者が処罰を望まなくても起訴ができるとされている。慰安婦や徴用労働者の証言を検証しようとする声も、証言の矛盾を指摘する声も処罰の対象になる。当事者たちが望んだかどうかも、そこにはもはや関係がないというのだ。