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“武力占領は無理でも、インドに革命をおこさせたい” 牟田口軍司令官が体現した、日本軍“失敗の本質”

『抗命 インパール2』(文春文庫)より#2

2020/11/20

source : 文春文庫

genre : ライフ, 歴史, 社会

牟田口中将の本心はインドのアッサム州進攻

 稲田副長はそのなかの誤りを指摘し、主力軍は南から行くのが自然ではないかといった。しかし、牟田口中将はゆずらなかった。小さなマニプール土侯国のインパールをとるよりも、英軍反攻の根拠地帯となっているアッサム州に進撃すべきだと主張するのであった。

 稲田副長は、牟田口中将の本心が、インドのアッサム州進攻にあることを知った。またそのために、主力軍を北にまわしてコヒマをとろうとしていることもわかった。

 牟田口軍司令官は進攻の方法について説明した。

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「作戦開始にあたっては、チンドウィン河を渡るのは困難だというが、舟がたりなければ、いかだで渡ってもよい。それからさきは敵の制空下にあるから、昼はジャングルのなかで休み、夜になって行軍する。補給が困難だと反対するものがあるが、牛などをたくさんつれて行き、それに荷物をつけ、つぎつぎに食糧にすればよい。コヒマを奪取してからの補給は、インパールの敵の物資と輸送力を使うことにする」

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 稲田副長は聞いているうちに、幾多の疑問を感じた。第1はチンドウィンの渡河である。ビルマ三大河の1つを、15軍の3個師団の大部隊が渡るのにいかだでもよいというのは強気にすぎると思った。補給については、強気どころでなく、危険なものに思われた。稲田副長は警告した。

「インパールを占領するにしても、戦争指導の大局から見れば、あくまでも限定目標の攻撃であって、インドの広い所に出て行くべきではないでしょう。なるほど、インドはひっくりかえしたいし、その可能性もあるでしょうが、それには対印謀略の基地として、インパールにボースをいれる程度でがまんせねばいけますまい」

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抗命 インパール2 (文春文庫)

俊朗, 高木

文藝春秋

2019年8月6日 発売

“武力占領は無理でも、インドに革命をおこさせたい” 牟田口軍司令官が体現した、日本軍“失敗の本質”

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