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source : 文藝春秋 2012年10月号

genre : ニュース, 社会, サイエンス, 教育

栄光学園の生徒に物理を教えた愉しい記憶

 1948年、わたしが東京大学理学部物理学科に入学した年に、捕虜になっていた父が帰国。とはいえ公職追放の身で職に就けず、アルバイト生活は続きます。学校に通ったのは、週に一日半といったところでしょう。

 わたしは折に触れて、「東大をビリで出た」と言います。全16教科のうち、「優」は「物理学実験第一」と「物理学実験第二」のふたつだけ。当時も、今と同じように成績評価は甘かったから、「全優」で卒業する学生なんていくらでもいました。成績がどん底でも、必修の「実験」だけはきちんと出席していたこともあり、東大大学院に進むことになりました。当時は就職難の時代でしたし、入試などない時代で、先生が「じゃあ、僕の研究室においでよ」と言ってくれれば、成績が悪くても大学院に入れたんです。それでも、よくこの成績で研究室に入れたものだとは思いますけどね(苦笑)。

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 研究者になってからも、相変わらずお金はなく、成績が悪くて奨学金も貰えない。

 その頃わたしは、信徒でもなんでもないのに、横須賀市田浦町にあったキリスト教の教会の寮に下宿していました。ちょうど田浦町に創設されたばかりの栄光学園も、ミッション・スクールでした。そこで「中学生に物理を教えてくれないか」と依頼が舞い込み、喜んで引き受けたのです。

 ありとあらゆる家庭教師をしてきたわたしです。1クラス40名程度の男子生徒を相手に週2日程度、物理の基礎を教えるのに、気負いや衒いがあるはずもありません。それにもともと子どもと遊ぶのが好きで、高校・大学時代から近所の子どもたちを写生やピクニックに連れていったりしていたぐらいですから、1年半に及んだ栄光学園での臨時講師は、とても愉しかった記憶があります。