安倍晋三 首相
「これまでとは異次元の圧力を科すべく、取り組みを進める必要がある」
産経ニュース 9月7日
名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。北朝鮮がまたミサイルを発射した。15日午前6時57分頃、北朝鮮は平壌付近の順安から弾道ミサイルを1発発射。ミサイルは北海道上空を通過し、日本列島にJアラート(全国瞬時警報システム)が鳴り響いた。
結局、ミサイルは7時16分頃に襟裳岬東の沖合約2200キロメートルの太平洋上に落下。韓国軍によると、ミサイルの最高高度は約770キロメートルで、前回と同じく日本の領空圏内は通過していない。もちろん、落下したのも日本の領海ではない。
7日午前、安倍晋三首相は訪問先のロシア・ウラジオストクで韓国の文在寅大統領と会談を行い、北朝鮮に対するさらなる圧力が必要との認識で一致した。その際の安倍首相の言葉が「異次元の圧力」だ。北朝鮮に対する断固とした強硬姿勢の表れである。安倍首相がアベノミクスの第一の矢として掲げた「異次元の金融緩和」を思い出す人も多かっただろう。「異次元」は首相にとってマジックワードなのかもしれない。
ところが、国際社会の足並みが揃わない。安倍首相と何度も電話会談を続けているトランプ米大統領は、かねてから「全ての選択肢がテーブルの上にある」と発言してきた(BBC NEWS JAPAN 8月30日)。「全ての選択肢」とは、軍事的手段も含めるという意味だ。安倍首相はトランプ氏のこの発言を非常に高く評価している。
一方、ロシアのプーチン大統領はかねてから制裁ではなく、対話による解決の必要性を訴えている。中国も同様だ。ドイツのメルケル首相は「われわれには平和的で外交的な解決しか考えられない」と明言している(産経ニュース 9月4日)。
日本時間の12日午前7時過ぎに行われた国連の安全保障理事会は、新たな北朝鮮制裁決議を全会一致で採択したが、草案に盛り込まれていた北朝鮮への原油の輸出を全面的に禁止することや、金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結は除かれ、原油については過去1年分に相当する量の輸出を認める、事実上の現状維持に等しい内容に修正された。これらはアメリカが決議の採択を急ぐため、制裁に慎重な中国やロシアに譲歩したものと見られている(NHK NEWS WEB 9月12日)。
安保理決議の内容はとても「異次元の圧力」とは言えない。ところが、安倍首相は「格段に厳しい制裁決議が迅速に全会一致で採択されたことを高く評価する」とコメント。菅義偉官房長官も記者会見で「今回の決議は初めて北朝鮮への原油、石油の供給量の上限を決めた。極めて強力な内容だ」と強調した(毎日新聞 9月12日)。
安倍首相が掲げる「地球儀俯瞰外交」とは、日本が各国との個別の関係を強化することで、橋渡しをしたり、国際世論をリードすることが目的だった。しかし、北朝鮮に対する制裁と圧力に関しては、トランプ氏としかうまく手を結べていない。15年にわたって安倍首相を取材してきたNHKの岩田明子解説委員は、「いまの危機の中にあって、ただ強固な日米関係を演出するだけでは、何のための地球儀俯瞰外交だったのか」と手厳しく批判している(『文藝春秋』10月号)。なお、トランプ氏は11月に初来日を予定しており、安倍首相との首脳会談のほか、ゴルフも計画していることが明らかになった(朝日新聞 9月13日)。