下着泥棒は、自宅に傷一つ遺さず、家に出入りしていた。元教え子の下着を盗んだなどとして神奈川大経済学部元准教授の岩下仁容疑者(41)が住居侵入と窃盗の疑いで警視庁に再逮捕された。複数の大学にマーケティングの講座を持っていた売れっ子准教授はいかにして元教え子の自宅に侵入し、下着を盗んだのか。

神奈川大学(空撮) ©️時事通信社

 自宅から突然、下着が1点なくなったのに東京都板橋区の20代の女性が気付いたのは今年2月下旬から3月上旬にかけてのことだった。

 下着泥棒にあう心当たりなど当然なかったが、不気味だったのは、自宅に目立った侵入痕がなかったことだ。窓も割られておらず、ドアなどにこじ開けたような形跡もない。では、泥棒はどうやって侵入したのか――。

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 相談を受け付けた警視庁志村署の捜査線上に浮上したのは、意外な人物だった。当時、神奈川大学で消費者行動論を担当していた岩下容疑者。女性が以前、岩下容疑者の別の勤務先で講座を受講したこともあり、親しくしていた。

岩下仁容疑者 プロフィール

 志村署は10月6日、最初の窃盗容疑で岩下容疑者を逮捕した。下着の窃盗ではなく、カギの窃盗容疑だった。昨年7月、女性が岩下容疑者に都内の喫茶店に呼び出された際、女性が席を外した隙にバッグからカギを盗んだ疑いが持たれている。志村署は、そのカギで合鍵を作成し、女性宅に侵入したとみている。

 犯行の半年以上前から女性宅にこっそり忍び入る下準備を進めていたことになる。用意周到と言えば周到。だが、捜査する側にとってみれば、カギを盗んで合鍵を作る手口は、僥倖だったともいえるかもしれない。最近は、さらに悪質でしかも手軽な手口が広がり始めているからだ。

神奈川大学(HPより)

カギ番号だけ、現物なしでも15分で合鍵

 岩下容疑者は、盗んだカギの現物を使って合鍵を作成したとみられる。だが、最近は現物すらなしに合鍵を作れるサービスを悪用した不法侵入の手口も明らかになっている。

 分水嶺とされるのは2016年に検挙された不法侵入事件だ。

 住居侵入容疑で愛媛県警に逮捕された病院職員の男は、マンションの管理会社を装って愛媛県松山市の女子大生の自宅を訪問。自宅のカギを提示させ、そのカギ番号をメモした。そして、そのカギ番号をもとにネットで注文するだけで、合鍵を作成していたことが発覚したのだ。

 最新式のカギは住所などの照合が必要なものの、多くのメーカーのカギは、カギ番号さえあれば複製できる仕組みができている。

 岩下容疑者のように現物を盗む危険を冒さなくても、席を外した隙にカギの画像を撮影するなり、番号を控えるなりで、合鍵を作るには十分な情報が得られてしまうのだ。