上野動物園にカンカンとランランがやってきた一九七二年、私は小学三年生だったが、「上野動物園に行ってパンダが見たいよー!」と駄々をこねるほどではなかった。アニメ映画『パンダコパンダ』は観に行ったけど。
大人になって東京で暮らしはじめ、上野動物園にも何度か行っているが、パンダは見ておらず、パンダ好きには信じられないくらい、パンダ度の薄い人生を歩んできた。
日本一のパンダ好きと言っていいかもしれない著者が、パンダという存在をこれでもかと追求したのが本書である。
冒頭に「全世界のパンダ一覧」があるのだが、その表に、すでに自分が知らない、知ろうともしなかった未知の世界の匂いが漂っている。こんなに世界中にパンダがいるのか。これは、ただ「パンダ大好き、シャンシャンかわいい♡」だけの本ではないぞ、と。
あとはもう、知っているようでほとんど知らなかったパンダという動物への興味のままに、濃い内容を楽しんだ。
繁殖力の低さ、自然環境や気候の変化の中で、どうやって個体数を増やし、人々に見てもらえるかの、世界中の関係者の絶え間ない努力に胸を打たれる。
そして、竹が主食ということから当然予想できたはずの「タケノコが大好き」ということを私は初めて知り、なんというかパンダの肩をバンバンたたきたい気持ちになった。
パンダ好きからは「初歩の知識ですよ!」とあきれられるようなことかもしれないが、パンダがいきなり身近になった気がした。竹を食うことは信じられないが、タケノコを食うことは理解も共感もできる。
「好き者が推しを語る魅力」
そしてなかなか共感はむずかしいのだが、著者のパンダにかける愛がすごすぎる。ジャーナリストとはいえ、パンダを見るためだけに、ほとんど自費で世界中のパンダがいる動物園を見て歩くという行為は、すごくて、そしてなんだかすがすがしい。
グルメとか美術館じゃなくて、目的がパンダ。
旅における様々な災難も、パンダ目的の前にはよけていってくれそうだ。
海外とまではいかないが、ちょいと国内のパンダを見てみようか、と腰を上げさせてくれるような「好き者が推しを語る魅力」がこの本にはあふれている。
妻の伊藤理佐と娘は昨年、シャンシャンを見ている。台東区に住む妻の友人夫妻がパンダ好きで「子供がいると最前列で見れるから、ムスメ貸して!」と言ってきたのだ。娘だけってことがあるか、と言いながら妻もついていって、二人は無事にパンダを見た。
この本を読んだ今となっては、この時私も無理にでもまぜてもらってパンダを見とけばよかった。
家族でそのうち南紀白浜のアドベンチャーワールドに行くのはありだな、と思い始めている。
なかがわみほ/福岡県生まれ。パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。物心ついた頃からパンダが好き。「週刊エコノミスト」などの記者を長年務めた経験を活かし、パンダにまつわる政治、経済、文化など各方面のスペシャリストに取材。
よしだせんしゃ/1963年、岩手県生まれ。漫画家。近著に『だって買っちゃった マンガ家の尽きない物欲』(光文社)など。