21日に今年の日本一を決める「日本シリーズ」が開幕する。最大の焦点は昨年なすすべなく4連敗して敗れた巨人が、4連覇を目指すソフトバンクを相手にどう戦うかだろう。そこでポイントとなるのが、今年、川上哲治氏の持つ監督通算勝利数1066勝を抜き、巨人歴代1位となった原辰徳監督(62)の「采配力」だ。今年は8月6日の阪神戦で増田大輝内野手を投手としてマウンドに上げるなど思い切った決断をし、賛否両論を巻き起こした。

原辰徳監督 ©文藝春秋

 果たして、原監督はこのシリーズでどんな采配を振るうのか。野球評論家の江本孟紀氏が原監督の「名将」としての器を野村克也氏や星野仙一氏ら歴代の名将と比較して話題の『監督 原辰徳研究 この「名将の器」に気付かなかった面々へ』(徳間書店)から、今シリーズの原采配を読み解く「カギ」となる部分を転載する。

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ソフトバンクに4タテされた2つの理由

野球評論家・江本孟紀氏

 幾多の修羅場を乗り越えてきた選手が必ず持っているもの、それは大舞台慣れした経験だ。昨年の日本シリーズでの巨人は、ソフトバンクになすすべなく4タテされて終わってしまった。戦前の予想ではソフトバンク優勢の声が多かったとはいえ、あのときの巨人は目も当てられないほど弱かった。

 なぜここまで圧倒されてしまったのか。それには2つの理由が考えられる。

巨人の大黒柱・菅野智之の不調

 1つは菅野智之の不調である。菅野は言わずと知れた巨人の大黒柱でもあり、原監督の甥である。けれども、原監督は選手への接し方が柔軟になった一方で、菅野に対しては厳しく当たっている。原監督自身、高校・大学時代は監督だった父・貢さんに厳格に接してこられていたからこそ、身内である菅野にも厳しくしているのだ。

菅野智之 ©文藝春秋

 それを象徴するのが、昨年6月23日のソフトバンク戦。勝てば交流戦の優勝が決まるという大一番で、菅野は1回4失点で降板し、原監督の逆鱗(げきりん)に触れた。その後も度重なるリタイアで、「職場放棄」とまで揶揄された。ファンからしてみれば、「長年チームに貢献してきたのに、なぜそこまで厳しく言うのか?」と思うところだろうが、菅野は今の野球界でトップの年俸(6億5000万円)をもらっている選手だ。つまり、これまでの苦言の数々は、

「高い年俸をもらっているのだから、それに見合った働きをしろ」

 という原監督流の檄だとも言い換えられる。