そして翌年9月26日、Aさんは意を決して一連の性暴力に関して、メールで北岡氏に謝罪を要求した。すると、すぐに返信があった。「謝罪したい」。Aさんは北岡氏が謝る姿勢を見せたことに正直、驚いたという。
翌日、Aさんが指定した喫茶店の個室に、北岡氏は30分、遅刻してきた。その姿は肩をすぼめた自信のない子どものようだった。北岡氏は入ってくるなり、「これまでのことは水に流してくれ」と切り出した。この時のやりとりが音声記録に残されている。要約するとこうなる。
「セクハラは自分の個性であり、また言うかもしれない」
「これまで自分はセクハラ的なことは注意されていない。周囲は自分の話を愉しそうに聞いている。セクハラは自分の個性であり、気をつけることができないかもしれない。今後は触らないけど、(セクハラ的な発言は)また言うかもしれない」
Aさんは弁護士に相談。北岡氏に対し「名誉回復のための謝罪」「慰謝料の支払い」「全ての役職を辞める」ことを求める決意をする。そして、「謝罪は受け入れられない」とする旨の内容証明郵便を、弁護士名で送った。すると数日後、思いも寄らぬ返答が北岡氏側の弁護士から伝えられる。Aさんの弁護を担当する笹本法律事務所・笹本潤弁護士は開いた口がふさがらなかった。
「北岡氏の提案は、一連の話を水に流してくれたら、Aさんを愛成会の理事長にする。そして、その後に自分は理事を辞める、というものでした。耳を疑いました。同時に、北岡氏は愛成会内において本当に権力を持っていて、自由に人事を操れる立場にあるのだと思いました。Aさんに理事長という名誉と地位を与えれば、謝罪も慰謝料も名誉回復も必要ない、という無責任な姿勢にあきれ果てました」
これから数か月後に北岡氏は愛成会から姿を消す。時を同じくしてフェイスブックも閉鎖。本拠地である「グロー」の事務所にも顔を出す回数が減っていく。周囲には「親の介護」を理由に実家である福岡・大牟田に通っていると説明していた。
Aさんは、愛成会の幹部女性や職員といっしょに、「愛成会からハラスメントをなくす会」を立ち上げ、法人内での体制改革に取り組んでいる。
北岡氏本人は公に姿を見せず…
もう一度、冒頭の愛成会の井上庸一理事長の発言を思い出して欲しい。表に出てこない北岡氏に代わり愛成会の代表者として事実確認を求めた際、井上氏は電話で「細かく知っています」「お詫びしないといけないと思う」「本人がきちんと謝っています」など、事実上、北岡氏の疑惑を認めている。
その一方、被害を訴えているAさんに対しては「勘違いですね」「デマだ」「意味不明なことをしている」などと発言。自身が代表の社会福祉法人で発生した性暴力疑惑を調査し、被害者救済に努めるどころか、「あれはセクハラでも何でもない。男性の生理現象なんです」という支離滅裂な論理を展開し、一方的に北岡氏を擁護し続けている。
北岡氏本人はこの疑惑にどう答えるのだろうか。事実確認をすべく、今月初旬、北岡氏の本拠地である滋賀県近江八幡市へ。その際には、グロー本部を訪問し、一連の疑惑に対する質問状を北岡氏とグローに提出したが、回答期限を過ぎても連絡はなかった。
その後もグロー本部や当人の自宅、実家を訪問するなど、再三にわたり連絡をとり続けているが未だに返答はない。
だが、なぜ北岡氏という人物は福祉の世界でこれほどの権力を持つことができたのだろうか?(続く)