「初老の男性には麻疹のようにある、ひとつの現象ですけどね。一過性のことで誰にでもありますよ」
「裸にしてみたことはあるけれど、それ以上のこと彼はできないんですよ。初老だから」
「彼はセクハラはしていません。あれは生理現象なんです」
電話口の向こうの男性は声を荒げ、時に笑いをこらえるようにして、そう連呼した。この男性は東京・中野に本部を置く社会福祉法人「愛成会」理事長・井上庸一氏だ。
そして、この井上氏が「彼」と呼び、必死にかばっているのが、すでに複数のメディアによって性暴力疑惑が報じられている滋賀県近江八幡市を拠点とする社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏である。
2020年11月13日、2人の女性が北岡氏から性暴力を振るわれ、10年にわたりセクハラとパワハラの被害を受け続けたと告発。北岡氏とグローを相手取り、計約4254万円の損害賠償を求め東京地方裁判所に提訴した。
北岡氏は今年の9月24日まで井上氏が理事長を務める愛成会の理事だった。
冒頭は愛成会内で発生した北岡氏による性暴力、セクハラ・パワハラの実態について、理事長である井上氏の説明を聞くべく本人を直撃した時の受け答えの一部だ。
井上氏がここまで守ろうとする北岡氏とは、いったい何者なのだろうか。現状、北岡氏本人からはこの訴訟について公での説明はない。いま、あらためて当事者や関係者の証言をもとに疑惑の背景に迫った。
障害者福祉の「天皇」によるセクハラ・パワハラ
彼は、障害者福祉の世界では「天皇」と呼ばれている。
社会福祉の業界でその名前を知らない者はいない。特筆すべきは永田町、霞が関との関係だ。その交友関係は幅広い。
厚労族と言われる加藤勝信現官房長官、田村憲久現厚労大臣、衛藤晟一元内閣府特命大臣の信任が厚く、安倍晋三前総理にも顔が利く。また、一部の厚生労働事務次官とは下の名前で呼び合う間柄で、障害者分野を担当する政策統括官、参事官など霞が関にも太いパイプを持つ。
そして、現在も厚労省の社会保障審議会障害者部会の委員や、内閣府の障害者政策委員会の委員を務めている。そんな障害者福祉の重鎮に浮かび上がった性暴力疑惑は、霞が関、永田町を巻き込んだ大問題に発展している。
告発者の1人、Aさんは「愛成会」の現役幹部で現在40代前半の女性だ。愛成会では2003年から働きはじめ、2006年に常勤職員(主任)となる。その後、2015年4月からは愛成会の役員になっている。
今年8月に都内の喫茶店で話を切り出したAさんは、怒りに震えながら10年以上にわたる北岡氏のセクハラを証言してくれた。