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外科医が手にしているのは木槌と鑿!
本書には計31点の「運命に思いを馳せたくなる絵画」が、オールカラーで取り上げられている。
ドガ、ブリューゲル、ラファエロ、ロセッティ、レンブラント……。時代も地域もスタイルもさまざまな画家たちの作品が並ぶのだけど、運命が顔を覗かせる「決定的瞬間」を捉えんとするゆえか、いずれも迫真性と緊迫感にあふれるものばかり。
1888年にイリヤ・レーピンが描いた『手術室の外科医エヴゲーニ・パヴロフ』にも、ページを繰る手がピタリと止まる迫力が……。
「実用化されてさほど間もない、麻酔手術の様子を描いています。画面左のホースで、麻酔を送り込んでいるのですね。
外科医が手にしているのは木槌と鑿! いったいどんな施術なんでしょうか……。助手たちが寄ってたかって患者の手や足を抑えているのは、麻酔が切れて患者が暴れ出す恐れがあるからです。
この時代の手術では、だれも手袋やマスクをつけていないことにも気づきます。衛生の知識・観念が、いまとは明らかに違います。
すべてがずいぶん荒っぽく見えますが、医療が現代の水準に至ったのは、こうした一つひとつの臨床の積み重ねがあったから。レーピンの描いたこの場面も、人類の運命を変えることにつながっていくひとつの『現場』だと言えるでしょう」