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銃にさらされる白シャツの男性
スペインの宮廷画家として知られるゴヤの『1808年5月2日 エジプト人親衛隊との戦闘』『1808年5月3日 プリンシペ・ピオの丘の銃殺』も、有無を言わさぬ「重み」が画面から伝わってくる。
「『5月2日』はナポレオン軍に抵抗したスペインのゲリラ戦がどんなものだったか、強烈に指し示す作品です。国の運命と、描かれた一人ひとりの運命が画面の中でせめぎあい、観る者の心を揺さぶります」
見れば馬上には、ターバンを巻いたエジプト人親衛隊の姿が目立つ。当時のナポレオン軍がいかに寄せ集め隊だったかが知れますね。
『5月3日』のほうで銃にさらされる白シャツの男性は、みずから光を発しているようで、手のひらにはイエスを思わせる聖痕まで描かれている。このようにゴヤは画面の至るところに、さまざまな『意味』を詰め込んでいます」
そう注意を促してもらえて初めて、人物の手のひらに注意を向けたり、そこに聖痕らしきものを見出せるようになる。絵の中に「意味」と「情報」がびっしり詰まっていることに気づいて、驚かされる。私たちは日頃、いかに絵を漠然としか見ていないことだろうか……。