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――確かに、妻側、夫側だけでなく、子どものとき同じような体験をした方も多そうです。登場人物は全て少しずつご自身の要素が入っているんですか?

野原 最初、美咲の気持ちだけは本当にわからなかったんですけど、徐々にかわいい人だなと思えてきました。私はドライなので、離婚準備を進めるなかで旦那に離婚を切り出されたら、「よし!」となりますから。

――私もそっちです。実は離婚経験がありまして。

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野原 私も離婚したのですが、そこで初めて誠側の気持ちもゆとりを持って見れたと思います。自分が渦中に居たら、客観視できなかったと思うんです。

 雨のなか外出しようとする誠の背中を見て、美咲があるセリフをつぶやくシーンがあるんですけど、それは今まさに渦中にいる人から聞いた話で。心の奥底からでたセリフだなぁと、今回使わせていただきました。

――そういったリアリティーもそうですが、セリフが必要最小限にまとめられていて、テンポもいいので、サクサク読み進められますよね。ネームには時間をかけていらっしゃるんですか?

野原 実を言うとそうでもなくて。特に前半の誠は単純な人なので、ぽこぽこネームが出てきた感じです。

『妻が口をきいてくれません』(集英社)より

「そのままでいてほしい」夫・誠に対して思うこと

――ちなみに、美咲や誠に対して、どのような感情をお持ちなんでしょう?

野原 誠にはそのまま抜けている感じのままでいてほしいですね。美咲からしたら腹がたつんでしょうけれど、このぐらいがちょうどいいというか、重くなくいてほしい。美咲は意地を張っちゃったみたいですけど、素直に生きていってほしいです。でも、知人の話がもとになっているからそう思うだけで、妻目線からスタートした話だったら、違っていたかも。

――では、先に妻側からこの話を聞いていたら、どんなアドバイスをされますか?

野原 難しい質問ですね。うーん、それでもやっぱり、「素直になってみなー」ですかね。誠もそこまで意地の悪い男ではないので、ちゃんと話せばわかると思うんです。

『妻が口をきいてくれません』(集英社)より

 ただ、育児や、家庭や、学校のことでいっぱいいっぱいになって余裕がなくなると、夫に鬱憤をぶつけるしかないというのは分かります。子育て中の余裕のなさは、自分で思い返してもびっくりするぐらいですから。美咲の場合、夫にぶつけられなかったのでこうなっちゃったのかなという気がしますね。

――外であたりちらすわけにもいかないですし。

野原 そうそう。夫にあたりちらす代わりに無言という形で表れたのが美咲なんだろうなと思います。誰が言ったかは忘れちゃったんですけど、ある仲良し夫婦が「夫婦円満の秘訣は何ですか?」と聞かれて、夫が「土下座して謝ることです」と答えていたんです。妻をうまく怒らせてあげるのが、夫婦円満の秘訣なのかなと。