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“8カ月で新宿三井ビル約7棟分の空き室発生” それでもビルオーナーに危機感がないワケ

2023年にはオフィス大量供給時代が到来

2020/12/01
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2008年に起こったリーマンショック

 それでは、オフィスビルマーケットは今後どのような方向に向かうのだろうか。大手ビルオーナーにとっての嫌な記憶は、2008年に起こったリーマンショックであろう。2007年の11月くらいまでオフィスビルマーケットは都心5区の空室率で2.49%と堅調だった。ところが、リーマンショックが顕在化する年明けから空室率はするすると上昇をはじめ、2008年7月には3.75%となる。この間8か月の上昇幅は1.26ポイントである。現在の同じ8カ月間での2.44ポイントの上昇よりもむしろ穏やかだ。ところがその後空室率の上昇には歯止めがかからず、2010年8月には9.17%に跳ね上がる。こうした悪夢のストーリーは思い描きたくはないのだろうが、実際今後のマーケットはどうなっていくのだろうか。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 まず、大手ビルオーナーの首脳が言う、今は中小テナントの動きにすぎないので、自分たちのビルに入っている大手のテナントにその動きはないし、大丈夫だという点をみてみよう。リーマンショックは世界の金融機能に大きな影響を与えたため、多くの企業で業績が悪化しオフィスの解約につながった。だが今回のコロナ禍は一過性の感染症にすぎず、現状では金融機能は健全であることから景気の大幅な落ち込みはないというのが発言の背景と思われる。

大型テナントの多くは3年から5年間の長期契約

 面積縮小、解約はあくまで中小テナントにすぎないというのは、おそらく現状としては正しいだろう。というのもリーマンショック時とは異なり、現在の大型テナントの多くは定期賃貸借契約という3年から5年間といった比較的長期の契約を結び、期限がくるまで解約できない仕組みとなっているからだ。すなわち、テナント側からみれば今は解約したくとも、期限が来るまでは交渉すらできないというのが実態だ。したがって現時点で面積縮小や解約交渉ができるのは中小ビルに入居している中小テナントであることはよく頷ける。

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※写真はイメージ ©️iStock.com

 だがこれは見方を変えれば、来年、再来年と時が進んで契約の期限を迎えるにしたがって、数値は徐々に悪化することが容易に想像できる。この8か月間で2.44ポイントも悪化したのは、むしろ前触れとしてはリーマンショック時を超える悪化スピードである点も気になるところだ。