自分にいかに不利益が及ぼうと、やがて強迫的性行動に耽溺しまうセックス依存症。性欲の強さが原因として考えられがちだが、決してそれが原因ではない。複合的な要素が関連して陥ってしまう精神疾患なのだ。

 ここでは、今まで2000人以上の性依存症治療に関わってきた専門家、斉藤章佳氏による著書『セックス依存症』より、過剰な性行為がやめられない2人の男性を紹介する。

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【30代男性・Eさんのケース】強迫的な自慰行為にのめり込む ~童貞・処女の性依存症~

 新しい職場や出張先、商業施設や映画館などはじめて訪れる場所で、まずEさんがすることがある。それは、トイレの場所を確認することだ。

 およそ5年前から過度なマスターベーションに耽るようになったEさんは、一度「自慰スイッチ」が入ると、マスターベーションをするためにトイレの個室にこもってしまうのだという。それは自宅だろうが、職場だろうが、時間や場所は一切問わない。

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 トイレでマスターベーションに夢中になっていると、時間があっという間にたってしまい、同僚に不審がられることも少なくない。当然業務にも影響が出て、ミスを連発してしまう。上司から良い印象を持たれていないことも自覚している。

 また休日には、1日に8回以上もの自慰行為に及ぶこともある。摩擦と過度な刺激から陰茎がただれて、出血してしまうこともしばしばだ。5回目以降は射精の感覚はあっても精液はほとんど出ない。それでもさらにローションをつけてマスターベーションに及んでしまうなど、強迫的な自慰行為がやめられないことに危機感を抱き、自らクリニックの門を叩いた。

 性依存症は、セックスへの耽溺だけに限りません。1日に何度もマスターベーションを常習的に行ってしまうというものもあります。

 後述する自助グループ(SA・SCA)では、マスターべーションを「自分とのセックス」と呼んでいます。男性は性的欲求を射精で発散するので、マスターベーションをすること自体はごく自然な行為だという見方もあります。

 2018年、コンドームメーカーの相模ゴム工業が全国の代から60代の男女、1万4100人を対象に行った調査では、「(セックス経験有無問わず)あなたはこの1ヶ月で何回マスターベーションしましたか?」という問いに対して、男性では20 代が11・4回、30 代が9・3回、40 代が7・4回、50 代が5・0回、60代が2・7回という結果でした。20 代でも3日に1回という頻度になるため、Eさんの「1日8回」という数字がいかに多いかがわかります(相模ゴム工業株式会社「ニッポンのセックス2018年版」)。