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マスターベーションで自己否定的な感情を紛らわせる

 また、問題なのは回数だけではありません。

 Eさんはむしゃくしゃしたり、職場でミスをして落ち込んだときにもマスターベーションをすることがしばしばあるといいます。性依存症者たちは、必ずしも常にアダルトビデオによって性的刺激を受けるなどの「即物的な性欲」からマスターベーションをしているわけではありません。彼らは精神的に落ち込んだり、むしゃくしゃしたり、ストレスを感じたときにマスターベーションをすると、それまでの気分が一時的にスッキリと晴れて解放されたと揃って口にします。行き場のない自己否定的な感情をマスターベーションで一時的に紛らわせていた、ということです。

マスターベーションが罪悪感につながるように

 しかしマスターベーションをした後には、決まって「またやってしまった」「仕事よりも自慰行為を優先してしまった」などと罪悪感に苛さいなまれ、なおさら落ち込み、その気分を解消するためにさらにマスターベーションをする……という負のループにハマっていくのです。

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 もちろんストレスへの対処行動(コーピング)の手段としてのマスターベーションは、性依存症者だけに見られることではありません。男女問わず、心当たりがある読者もいるかと思います。しかし性依存症者には、コーピングの手段が極端に少ない人も多く、過度なマスターベーションが性的逸脱行動のトリガー(引き金)となり、痴漢などの問題行動への渇望感(クレイビング)を誘発することは、すでに『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)でも論じています。

 Eさんのエピソードからも、快感ではなく自己否定的な感情を一時的に遠ざけるために行う「負の強化」こそ依存症の本質であることがよくわかります。マスターベーションがやめられないタイプの性依存症には、性交渉の経験がなくても陥るため、しばしば童貞や処女の人にも見られます。