自己肯定感の低い依存症者
往々にして依存症者は、根っこでは自分に自信がなく、自己肯定感が低いため、周りの人から嫌われることを極度に恐れています。「助けてと言ったら嫌われるかな」「お前なんかダメなやつだと否定されるんじゃないか」など不安感を常に抱えています。「助けてほしい」というメッセージを発信できない。これはとても苦しい、どん詰まりの状態です。「今、自分は苦しいから助けてほしい」――普通の人にとってはとてもシンプルなことでも、依存症者にはなかなか言えないのです。そういう意味では、回復していくなかでこの「援助希求能力」を高めていくことが重要になってきます。
さらに「自分から関係を切ってしまう」こともよくあります。恋愛でいうと、「フラれる前に自分からフッてやったんだ」などとイキがってしまう状態です。相手に先制攻撃をすることで、自分の自尊心は傷つかないで済むように思えるからです。
これは非常にいびつで複雑なメッセージです。いざ巻き込まれた周囲の人にとっては、振り回されるし、しょっちゅう裏切られるし、嘘も多いし、対応が難しいものです。正直、関わりたくないと思ってしまうのも仕方がないことだと思います。
しかし長年の臨床経験から私がいえるのは、「困った人」というのは「困っている人」という側面を必ず持ち合わせています。周囲から「この人と関わりたくないな」と煙たがられている人や「処遇困難例」といわれている人は、口で「助けて」と言えない代わりに、問題行動(症状)をエスカレートさせることで、周りにSOSを出しているのです。
普段は真面目な人が多いセックス依存症の当事者
とくにセックス依存症の当事者は、手のつけられない性欲モンスターではなく、普段は真面目で弱者の味方といったイメージの人物であることも多く、会社や親からはそのような評判もよく聞きます。このようなタイプの依存症者は、周囲からの視線や期待に敏感すぎて、自分自身をめいっぱい膨らまして生きている場合が多いのです。しかし一方で、それが苦しくて仕方がないけれど、誰にも相談できないという葛藤状態にあります。
これらの「処遇困難例」といわれる人の治療は、「助けてほしい」というSOSを適切に出す方法を本人に学んでもらうことが課題です。安全な治療関係のなかで、自分の弱さを自覚して、それを少しずつ治療者であるキーパーソンに出していくことにより、徐々に克服することができるようになってきます。