2018年、WHO(世界保健機関)が定める精神疾患の国際疾患分類が「ICD-11」に改定され、新たに「強迫的性行動症」という病名が加えられた。一つひとつのケースにより、それが疾患かどうかの慎重な判断が必要ではあるものの、「性的嗜癖行動」が治療の対象になったということは、それだけ病に苦しんでいる人が多いともいえるだろう。
ここでは、今まで2000人以上の性依存症治療に関わってきた専門家、斎藤章佳氏による著書『セックス依存症』より、さまざまな性依存症の実態を引用し、紹介する。
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【40 代男性・Gさんのケース】オンラインセックスへの耽溺 ~コロナの時代のセックス依存症~
Gさんは、15 年間連れ添った妻と離婚の危機に瀕している。サイバーセックスがやめられないのだ。
「妻への愛情はあるが、さまざまなプレイに興味を持ってしまった。風俗に行きたいが金銭的に厳しいので、無料のサイバーセックスで我慢していたらやめられなくなってしまったんです」とGさんは語る。
毎日のようにオンラインで女性と知り合い、ときには普段の生活では関わりのない
20 代の女性とも卑猥なやり取りを重ねたGさんは、文字どおり寝食を忘れてサイバーセックスにのめり込んだ。
睡眠時間が極端に短くなったGさんは、仕事に遅刻したり大事な約束をすっぽかすことも少なくない。さらに精神的に不安定になって心身ともに体調も崩し、ついには入院したこともあるという。
また先日はSkypeで知り合った女性と実際に会って肉体関係に及び、それを知った妻は激怒。Gさんに三行半を突きつけながらも、彼の身を案じてクリニックに相談に来た。
コロナ禍で増加したサイバーセックスへの依存
「サイバーセックスは、セックス中毒のクラック(安価な濃縮コカイン)だ」
これは、アメリカにある依存症治療専門施設の臨床責任者、パトリック・カーンズが述べた言葉です。
インターネット黎明期から現在まで、世界中にはサイバーセックスを楽しむ人々が大勢います。サイバーセックスの明確な定義はないものの、掲示板やコミュニティなどで知り合ったふたり以上の参加者が、インターネットのチャットや動画を介して性的なメッセージを送り合い、性的興奮を得るものです。
サイバーセックスではいわゆる「濃厚接触」をしませんし、妊娠や性感染症の心配もありません。相手をリスクに晒すことなく性的充足感を得ることができます。またSkypeやZoomなどコミュニケーションツールが普及し、ほとんどの場合は無料で行える手軽さもあります。
最近はオンラインセックスとも呼ばれ、2020年、世界中を襲った新型コロナウイルスの影響で外出自粛で巣ごもりを余儀なくされた人のなかには、LINEやSkype、Zoom などを使ってサイバーセックスに興じた人も少なくないようです。遠距離のカップルがコミュニケーションを育んで楽しむ分にはなんら問題のない行為ですし、健全なサイバーセックスは違法ではありません。