【30代男性・Fさんのケース】過激なSMで露出、流血 ~SOSとしての問題行動~
介護老人保健施設で働く介護職員のFさんは、幼少期から教師の両親に厳しく育てられてきた。進学を機に上京し、真面目にコツコツ勉強して成績は優秀。しかし子どものころからコミュニケーションが不得意だったFさんは、職場でもスタッフや利用者との食い違いのために、しばしばトラブルを起こしていた。また女性との会話も苦手で、恋愛もほとんどしたことがなかった。
そんなストレス過多の生活のなかで、FさんはインターネットでSMの世界を目にする。日常と切り離された淫靡な世界観に魅せられたFさんが、実際にSMクラブに通うようになるまで時間はかからなかった。女王様に罵倒され、調教されるたびになんともいえない恍惚感に浸った。最初は自分の新たな性癖に戸惑ったが、職場でクレームを言われている自分とは違う、もうひとりの自分を得られたような感覚もあった。
最初は縄による緊縛プレイがメインだったが、やがてSM愛好者が集う掲示板も利用するようになり、激しいスパンキング、露出……と行為はエスカレートしていった。
そしてある日、掲示板で知り合った女性との性行為中に流血プレイに及んだ。カッターで右上腕部を切りつけられて出血が止まらず、夜間救急に駆け込み、病院で縫合してもらったという。いまだにFさんの右腕には、そのときの傷が深く残っている。
行為のエスカレーションは周囲へのSOS
行為のエスカレーションも依存症の特徴です。Fさんの例は、ノーマルなセックスに飽き足らず、プレイが過激化していく典型といえます。
セックス依存症に限らず、薬物や万引き、アルコールなどの依存症者は、周囲に隠れて問題行動を続けているにもかかわらず、次第にエスカレートし、明らかに周囲にバレる行動を取るようになることがあります。
公園など屋外でセックスをしてしまう、泥酔して警察に捕まる、救急車で搬送される……。本来はバレたくない、捕まりたくないと思ってやっているはずなのに、まるで捕まえてくれといわんばかりの行動です。
この矛盾した症状行動は、実はそうすることで彼らが誰かに向けて発している、「こんな自分を止めてくれ」というメッセージなのです。行為のエスカレーション自体が周囲へのSOSだと読み替えてもいいでしょう。