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「ドボッ」という音とともに目から溢れる血の塊…歌舞伎町ホストを襲う“ケツモチ”のヤバい逆襲

『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』より #2

2020/12/05
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格好がつくかどうかという判断基準

 正直、私も途中で向こうの店の人間が止めに来るだろうくらいに安易に思っていて実際にタイマンなんてはる気は毛頭なかった。疲れていたし、さっさと店に戻りたかった。「やってやるよ。ついてこい」とそいつが言ってきた。まー、途中で止めが入るだろうと高をくくって付いて行った。もしくは途中でやっぱりやめると言い訳するか、軽い気持ちだった。腕っぷしの強い後輩もいたので、どうにでもなると思っていた。いきなり殴られても大怪我する強そうな相手ではなかった。だからどのみち私の格好はつきそうだった。

 しかし、そいつが連れて行った先はそいつの店の下で、酔っぱらった仲間たちがたむろしていた。「揉め事かー?」と騒ぎ立てた1人がいきなり私に飛び掛かってきた。それを合図に10 人くらいにもみくちゃに袋叩きにされた。反撃する隙はなかった。

 まだラグビーをやっていた体力も残っていたし、腕力にも自信があったが、攻撃するより防御の方が断然疲れる。後輩と向こうの店の冷静な人間が間に入って、その場を鎮める頃にはへとへとになっていた。相手たちは騒ぎながら店に戻り、私も後輩が店に連れ戻してくれた。

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ケツモチのやくざが大金を持って謝りに来た

 とりあえず私は疲れていた。そして冷静でもあった。店の人間たちは「戦争だ!」と殺気だって、相手の店に乗り込もうとした。完全に非は向こうにある。それは向こうの店もわかったようで、すぐに相手の店の偉い人間がうちの店長に連絡して謝ってきた。店長はみなを鎮めた。

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 それは大人の話し合いにするということだった。お前が格好つくようにするから、と言ってくれた。私はラグビーをやっていたから痛みには鈍感だったが、一応病院に行った。このときは特にむかついていなかった。それよりも疲れて眠かった。

 起きてすぐに店長から連絡があった。先方のケツモチのやくざが大金を持って謝りに来たと。それは我々堅気の世界では終了のゴングだ。店長は「もうどうしようもないんだ、ごめんな」と私に謝っていた。

 私は気持ちの整理ができていなかった。昨日の私の態度に間違った部分は特になかった。後悔する部分も特にない。でも、どうも腑に落ちない。