主に歓楽街にある飲食店や風俗店の用心棒として、トラブルの対応にあたることで知られる“ケツモチ”。暴力団対策法の改正をはじめとしたさまざまな締め付けにより、現在では、ケツモチを置かない店が増えてきているともいうが、歌舞伎町の歴史を振り返るうえで、欠かしてはいけない存在であることに疑いの余地はないだろう。

 ここでは、カリスマホスト・経営者として23年間歌舞伎町で生きる著者手塚マキ氏による著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』より、ケツモチに逆襲された恐怖のエピソードを引用し、紹介する。

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ホストは看板商売

 21世紀になる直前から、私は不動のナンバーワンになっていた。歌舞伎町でも3本の指に入るような売れっ子ホストだ。ホストをやっていて私を知らない人はいなかった。

 ある日営業終了後、お客様を後輩と2人で送り出した。区役所通りに出てタクシーを止めてお客様を乗せて見送った。その後、店に戻る我々の背中に「こっちが先にタクシー待ってたろーが。ふざけんなよ」という罵声が他店のホストから投げかけられた。我々は酔っていなかった。気を使った後輩が、「すいませーん」と軽く言い、「酔っ払いですよ、あんなバカほっといて戻りましょ、ささ」と私を店の方に促した。

 ホストは、看板商売だ。後輩もわかっている。私がここで振り返らないで店に戻ることがカッコ悪くないように仕向けてくれたのだ。しかし、そのホストはしつこく何やら叫んでいる。当時は私も若かった。振り返ってしまった。

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 そのホストは肩を揺らして私に向かって歩いてくる。私は黙ってただ立っていた。ぶつかる直前で止まる。「舐めてんのか? このやろう」と意気込んで迫ってくる。お客様の前でカッコつけたいのだろう。まだそういうホストはこの時代にはいた。私は冷静だった。

「カンバン下ろしてタイマンはってやるよ」

 当然、私のことは認識していると思ったので、「看板下ろしてタイマンはってやる

 よ」と言ってやった。相手は「舐めてんのか? 俺に勝てると思っているのかよ」と明らかに怯んだ表情で、口喧嘩を続けようとする。唇が震えていた。そんなことにならずに、我々が引いて終わるだろうと思っていたのだろう。たいがい実際の殴り合いの喧嘩にはならず、こういういざこざで終わることがほとんどだ。もう私が優位のモードだった。

「看板下ろして」というのは、店同士のおおごとにしないということだ。店の格も個人の格も私の方が上なのに、あえて看板を下ろすというからには、私が余程腕に自信があると相手は思ったことだろう。