アジア最大の歓楽街新宿歌舞伎町。不夜城とも称される街が新型コロナウイルス感染の震源地として矛先を向けられていたことは記憶に新しい。

 店を閉めれば店員の食い扶持がなくなり、店を開ければ感染拡大のリスクが伴う、世間からのバッシングもほかの地域に比べて大きい……まさしく、あちらを立てればこちらが立たぬの状態に陥っていたといえるだろう。コロナ禍で揺れる新宿歌舞伎町…果たしてホスト達は何を思っていたのか。

 カリスマホスト・経営者として23年間歌舞伎町で生きる著者手塚マキ氏による著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』より、“夜の街”騒動当時の知られざる行政との対話について、引用し、紹介する。

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ホストクラブのことを教えて欲しい

 2020年5月。緊急事態宣言下の東京では、夜の街が感染源だという報道が歌舞伎町の映像と共に連日続く。都知事も毎日のように優しい言い方と柔和な表情で、ハッキリと名指しで夜の繁華街への出入りを自粛するように促す。実際、どの業種だかわからないが、夜の街関連の感染者数が日々加算されていった。

 5月25日。緊急事態宣言解除。街の雰囲気は緩くなっていった。しかし、東京都が示す「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」のステップ3にも、我々ホストクラブは休業要請解除の業種として入っていなかった。実際、ホストクラブから感染者が出たという噂も聞いていた。

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 6月1日。世の中は解禁ムード。歌舞伎町のキャバクラやホストクラブもほとんどの店が営業再開を宣言した。私の経営するホストクラブのグループも同じような方針を取った。営業を再開させる目途を立てないまま、自分の店だけ休み続けさせることはできなかった。私の個人的な気持ちで言えば、もう少し緊急事態宣言を続けて欲しいと思った。再び感染症が日本中に拡がったら……、しかも歌舞伎町が感染源となったら……想像するだけで恐ろしかった。ホストクラブがやり玉に挙げられ続けることもつらかった。

 にもかかわらず、私が何もできずに現実から目を背け始めてしまったときに、新宿区長から連絡が来た。会って話がしたいと言われた。

 行政の力を借りて業界全体を抑え込み、さらにその上で普通の飲食店よりも徹底した感染予防対策を取ることができれば、業界の未来に繋がるのではないか? 歌舞伎町からクラスターを生み出さない環境整備についてのガイドラインを一緒に作れたりするのだろうか? 行政の人にお店の見回りをして貰うのはどうか? いろいろ想像した。

 自分たちではどうにもコントロールできない状況を打破するきっかけになるのではないかと私は期待をした。

 翌日、私は1人で新宿区役所の区長室に伺った。区長室には、区長、保健所長、保健師、感染症対策の担当者の4人がいた。

 ホストクラブはどこも営業している。私のグループも営業している。我々に対する非難から始められたらどうしようかと思い、先に詫びた。

 しかし、区長からは、そこはわかっている。その上で現実的に拡大防止をどうするのがいいのか? という具体的な話がしたいと言われた。行政に営業を止める権限はない。とにかく彼らが私に伝えたかったのは、二次感染防止の話だった。