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「区長、営業OKって言ってください!」夜の街で起きていた“ホスト”と“区役所”の知られざる対話

『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』より #1

2020/12/05
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ホストクラブに根強くある行政への不信

 早速事務所に戻り意気揚々と何人かのホストクラブ経営者に電話を掛けた。

 新宿区は味方だ、我々と利害が一致している。現実的に感染拡大をさせたくない。そして名指しで風評を作られたくない。この2点だ。そのために保健所の調査に協力しよう。それだけだ。明日か明後日、区役所に来て、直接区長たちの話を聞いて欲しい。そう伝えた。

 まったく賛同を得られなかった。

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 行政と手を組んで手のひら返しされたらどうするんだ。今までも手のひら返しされたことがあった。

 どう世間に言われようが、現状営業できているから余計なことはしたくない。

 感染拡大に加担しなければいいだけだ。

 感染予防の徹底はしている。それだけで十分なのでは? あえて藪蛇になるかもしれない行動をする意味があるのか?

 下手に保健所に言えば、正式に発生場所と認定されてしまい、名指しされ、店も公表される。だったら職業も住所も適当に言っといた方がいい。

 高熱が出た人間を検査させようとしても受けさせて貰えなかった。だから自分たちでホテルに隔離したりしてきた。実際に感染者が出たところは店を閉めて、消毒して様子を見て、元気なスタッフで再開をする。ということもしてきた。

 実際に一番困っているときに検査を受けさせて貰えなかった。今はもう平気だと思っているから別にいい。

 また昔みたいに地下に潜ればいいだけだ。悪者扱いされることには慣れている。

 リアルな現場の声だった。

 日陰者としてやってきた強さだ。自分たちの命は自分たちで守る。

©iStock.com

 私が好きだと言い続けてきた歌舞伎町。20年以上いて、どこの派閥にも属してこなかった私だからこそできることがある。感染症の勉強にも熱心に取り組んだ。この状態を見て見ぬふりはできない。

 多少ごり押しで話を聞いてくれた二つの後輩グループだけが、翌日来てくれそうな雰囲気だった。

 深夜2時になっていた。思案に暮れた。みな行政に期待なんてしていないことを改めて痛感した。そもそもみなの認識は、行政というか公的な機関はすべて一緒くたにして取り締まる側とし、自分たちは取り締まられる側というものだった。そのため都知事があれだけ我々を敵視しているのだから、今更新宿区と連携したところで意味がないという認識だった。

 区長にメールした。思ったより声掛けがうまくいかなかったこと、そして思いのほか行政に対する不信感があるということ、みなが言っていたことを洗いざらい伝えた。だから、会の冒頭に行政の基本的な仕組みの話をして欲しいと伝えた。翌日次第で、それ以降の輪が拡がるかどうか決まるだろう。区長も起きていた。すぐに返信が来た。区長は今まで信頼関係を築いてこなかった責任について述べてくれた。私が1人で再び伺うことになったとしても毎日門戸を開いて待つと言ってくれた。