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 業界最大手の方の質問から始まった。それは業界を代表する悲痛な叫びだった。強い口調で、区長に対して国の対応、都の対応、そしてそれによって生まれた風評、そこで働く人間たちの気持ちを伝える。

 区長は、テレビでよく見る政治家のように質問の答えを濁すようなことはせず、真摯に答えてくれた。そして国や都に対して必ず意見を言うと約束してくれた。

 それでもさらに強く区長に迫る。

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「区長言ってください。営業していいって公に言ってください」

 たくさんの人の思いを背負ってきている責任感がそう言わせるのだろう。

 しかし、私は割って入った。これ以上区長に背負わす訳にはいかない。ここまで行政が歩み寄ってくれたのだから、我々もここは理解しましょうよ、となだめた。これから信頼関係を作っていきましょうよ、と言った。

 その後もいろんな人から活発に意見が出た。

 報道の仕方に対しての苦情。飲食店と電車との違いがわからない。当たり前の対策はしている。もっとこういう風にしたらという指導があるといい。現場で指導をして貰いたい。抗菌、抗ウイルス助成金は?

 具体的な質問がたくさん出た。区長たちはどんな疑問にもしっかり答えてくれた。

 私は、翌日も4日続けて新宿区役所へ向かった。

 2日間の意見交換会を踏まえての今後の話し合いだ。私は時間がある限り区長たちと事業者たちが直接顔を合わせる時間を作って欲しいとお願いした。区長たちも快諾してくれて、10回ほどのスケジュールが組まれた。さらにホストクラブ以外の歌舞伎町の業種にも連携の輪を拡げて、歌舞伎町内外に向けて感染拡大防止を目的とした対策連絡会を立ち上げましょうという話になった。メディアも呼んで大々的にやることにした。6月18日に日付も決まった。

©iStock.com

 その夜、副知事を中心とした見回り隊が歌舞伎町に現れた。密を避けろと密になりながら叫び、東京アラート発動中という掛け声を発しながらメディアをたくさん引き連れて徘徊した。

 どんな様子なのか、私は、見回り隊を探しに行った。街中歩いても、見回り隊は見つからない。知り合いにも会わないから行方もわからない。事務所に戻ろうとしたら、大群のやくざが走っている。ワンボックスカーを囲んで横から後ろから乗り込んでいる。1人が電話をして叫びながら違う方向に走りだすと群の一部が付いて行く。私たちは氾濫する濁流の中州のようにその場にとどまる。両サイドを大群が走り抜ける。どんどんやくざも見物人も警察官も増える。これが歌舞伎町だなと思った。