あり得ない数値
証言を集めていくと、不可解だった記憶が蘇ってきた。
たとえば放管である。放射能を測定し、作業員の被曝を防ぐ係員たちは、どうみても私同様の素人に思えたのだ。言葉で表現するのは難しい。あえて言うなら危機感の欠落した表情で、シェルターでも無意味な改革ばかり繰り返していたとは指摘できる。7月、汗でグシャグシャになった下着は、シェルターの廊下部分に置かれたプラスチックケースに脱ぎ捨てる決まりになっていた。が、8月になって東芝の放管がそのルールを変え、それぞれに割り当てられた部屋に下着回収ボックスが設置された。運ぶ際に重い、というのが理由だ。ただでさえぎゅうぎゅう詰めのスペースがさらに狭くなる。作業員のことはまったく考慮されていなかった。
白髪交じりの長髪で、ヒッピーのような風貌の放管―。
ある朝のミーティングの際、彼は2階の喫煙所が完成したことを報告し、「喫煙所で座り込んでいる人がいますが、これからはそんなことのないように」と作業員に向かって指示を飛ばした。作業を終え、新設された喫煙所に行くと、当人が座り込んでタバコを吸っていた。そのすぐ横に彼が書いたのだろう、手書きの貼り紙があり、「座りタバコは禁止」と書いてあった。専門職独特の緊迫感がまるでない。
「本当の放管……ほとんどいませんよ。あいつら、放射能のプロですよ。あの汚染をみたら、とてもじゃないけど敷地内には入れない。たいてい、にわか知識のヤツを集めて、がんばってって送り出すんです。マニュアルしかわかんないのをぽんぽん送っているわけです。ほとんど知識のない人間を一時的に教育して、放管にしちゃう。純粋な……っていったらおかしいかもしれないけど、そんな人はほとんどいない。最初の頃は行ったかもしれないですね。でもいまは来ない。行ってない。怖さが分かるから行けないんです。あいつら勉強してますもん、けっこうどころじゃない。真剣に怖がってます。
一口に被曝っていうけど……免震棟でAPDもらいますよね。あれ、β線とγ線を測れます。でも放射線ってその2つだけじゃない。中性子やα線とか、出てるんですよ。α線は短い距離しか飛ばないし、紙一枚で遮れるっていうけど、股間あたりまでは出てるんですね。そんな場所で地べたに寝転んで何時間も作業するんですよ。若い子とかは精子もだめになっちゃいますよ。放管が最初に現場に行って、放射線測定するんです。でも素人みたいなのが多いから、うちの現場には、もう一回放管呼んできて放射能を測らせる。するとすごい数字が出るんです。