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夜の営みは「優しさの欠片もない獣のような行為」 なぜ、中国人“毒婦”は夫を殺そうとしたのか

『中国人「毒婦」の告白』#7

2020/12/03
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 2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。
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嫁のいうことを聞いていたらいずれすっからかんになる

 しかし、鈴木家と近所の人たちの証言は、詩織の見方とはいささか異なる。

「確かに鈴木家は倹約家だった。でも、このあたりではごく普通の倹約だったのではないかな。現金収入の少ない農家なんて、バラバラお金を使っていたら、たちまち一文無しになってしまう。だから茂さんは、“秋子は、お金をあげたらあげたで、全部使ってしまう。だから、家の金は自分で管理するようにした”と言っていた。へーえ、秋子ちゃんは、そんなことを言っていたの。どっちが本当の話かはわからないね。もっとも秋子ちゃんは、茂さんが入院していたときは、毎日のようにタクシーを使っていて、そのうち、お金がなくなったのか歩いてJRの駅まで通っていたこともありましたよ」

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※写真はイメージ ©️iStock.com

 また警察関係者もこうも指摘する。

「詩織は事件を起こすまでに、茂に、中国の実家でトラブルがあった、父の事業がダメになった、兄が借金を作ったなどと言って、1回で数10万円、トータルで500万円ぐらい出させて送金している。人のいい茂はそのつど文句をいいながらも金を工面していたらしい。日本だって500万円といえばちょっとした金。まして中国の田舎なら10年、20年は遊んで暮らせる金だ。それらの金が何に使われたのか。本当に父親の事業がダメになったのか。借金返済に充てられたのか。実際は誰も知らない。多分茂は、嫁のいうことを聞いていたらいずれ自分の財産がすっからかんになると気づいて、詩織に金を与えなくなったのだと思うよ」

※写真はイメージ ©️iStock.com

 また茂の弟も詩織の実家と送金などについて、こう話していたと捜査関係者が明かす。

「詩織の家はけして裕福な家ではなかったという。結婚したてのころもおよそ結婚支度などゼロ。着るものもほんの少し持ってきただけで茂さんのトレーナーなどをよく借りていたのだと言ってたな。それに日本語を学ぶからとか、自動車免許を取るからといって鈴木家では送金したのに詩織は何もやっていなかったという。日本語も二言、三言簡単な言葉が分かる程度で、ほとんど分からなかった。あの日本語を学ぶからと送金したカネはどうしたのか。しかも日本に来て彼女が必死に茂さんに頼んだことはまずは送金だったという。鈴木家でも、そんな裕福でカネがあり余っているわけでないから困っていたらしい。それでもタマに工面して送っていた。だからお金の話がしょっちゅう出るので通帳とかは詩織には触らせなかったという。つまり隠していたらしい」

 双方の言い分が真っ向から食い違うが、両親が亡くなり、そして茂も植物状態に陥ったため、“真相”は、いまだに藪の中だ。