昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/12/03

傷つき疲れ果てて

 そして、こうも言いました。

「私たちの生活は大丈夫だからあまり心配しないように、それより自分を大切にし、自分を守ることだけを考えるように」

 異国で暮らすには、味方は自分だけしかいないのだ、ということを、両親は言いたかったのでしょうが、当時の私には、その言葉が理解できなかったのでしょう。だから今、傷つき疲れ果て、この場、拘置所にいるのです。ここから出ることができるとき、両親の言葉を深く理解することができると思っていますが、そのために、私は、人生のとても長い時間を使ってしまわなければなりません。高い、高い授業料です。

 ともかく、そうやって私は鈴木茂さんの元に戻ったのです。ただ、少なくとも今は、当時そのようなことを心に決めたことを後悔しています。〉

 確かに、ここでも仮の話になるが、このタイミングで、日本に帰らない決断をしていれば、その後、重大事件が引き起こされることもなかったのだ。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 手記を読み進めていると、詩織という女性の正体が分からなくなってくる。巷間言われていたように毒婦なのか、鬼嫁なのか? はたまた、融通のきかない頑固な田舎娘なのか、生真面目なのか? それとも、残るも地獄、進むも地獄という厳しい中国の農村部に止まるより、日本に戻り、永住権なり、国籍を得た方が、稼ぐこともできるし未来が展開できると、したたかに計算していたのか? いずれにしても詩織は「1年だけ」を胸に日本に戻るのだ。

中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売

この記事の写真(7枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー