2012年以来、探検家の角幡唯介(かくはたゆうすけ)さんは4回に渡って真冬の北極圏を旅してきた。
「夜が明けない極夜の闇の中を1人で橇(そり)を引いて冒険し、その果てに太陽が昇ったときに、果たして人間は何を思うのか。地理上の空白を目指すのではなく、より根本的な未知の世界に触れることを目的とし、現代的な探検の道を開拓することが目的でした」
昨年冬から今年の春に掛けて行われた極夜行は、ハプニング続きだったという。
「前回の旅で中継地点にデポした食料や燃料が、白熊に食い荒らされていたのです。月明りを頼りに麝香(じゃこう)牛を獲ろうと試みたけど、見通しがきかずに仕留められず。手持ちの食料は2カ月分しかなく常に空腹で、相棒の犬も痩せ細っていった。 その姿が哀れで感傷的になりつつ、『こいつが死んだら食べるのか……肉が少なくなっちゃったな』と思ったこともありました(笑)」
旅のクライマックスは、出発から78日目に訪れた。
「20時間近く続いた地吹雪が、一瞬ゆるんだ。そのとき旅に出てから初めて太陽が昇りました。すごくデカくて、温かかった。こみあげたのは純粋な感動で、思わず涙が滲みました」
INFORMATION
10月より、文春オンラインで北極探検記「極夜の探検」の連載を開始予定