風俗嬢デビュー
〈こうして私は東京の浅草周辺で飛び込みで性サービスのないマッサージ店に勤めました。でも、はじめたばかりの頃は、慣れないせいか、とっても嫌でした。
最初は40代の男性。裸で、うつぶせになっている見知らぬ男に、どうやってマッサージをすればいいのでしょう。どこから始めたらいいのか、どうしたら喜ぶのか一向に分かりません。心臓がドキドキしていて、開いた手でお客さんの肩を触りました。何か違うみたいです。今度は背中を触ってみましたが、やはり何か変でした。手を腰の上において、ちょっと迷って動かしました。これのどこがマッサージなのでしょう。触っているだけ、圧していません。もし、その時、誰かが私の様子を見ていたら、私が魔法使いか催眠術師に思えたでしょう。どうしたら良いのか本当に分かりませんでした。すると、お客さんが、むっくり起き上がり、あぐらをかいて、私をじっとみました。怒られるのでしょうか。お客さんは、私をジロジロ見た後、こう尋ねてきました。
「新人?」
「ハイ、なんにもわからないのでゴメンナサイ」
私は身を固くして謝りました。それにお客さんが全裸だったので、恥ずかしくて顔が真っ赤になりました。
するとお客さんが、突然笑い出し、こう言ったのです。
「もうマッサージはいいから、ここに座っておしゃべりをしようよ」
「マッサージをしなくても、お客さん怒りませんか?」
「怒らないし、ママさんにも言わないよ」
私は安心して横に座りました。
「笑顔が可愛いね」
「そんなことありません」
「まだ学生でしょう?」
私は笑ってその質問には答えませんでした。
私が二児のママなんて知ったら、きっとひっくりかえるだろうな、などと考え、可笑しくなりました。その後も、多くのお客さんから学生と間違われました。
「日本の食べ物好き?」
「好きです」
「何が好き?」
「お刺身とおすしが一番好きです」
終了時間になると、会話することもなくなり、ふたりとも黙ってしまいました。そして、最後にお客さんはこういいました。
「君は俺の好みのタイプだ。今度は指名するから。きょうはありがとう」
なんと私は逆にお礼を言われてしまったのです。のちに、このお客さんは本当に指名してくれました。私の風俗体験1日目は、恵まれていて、次のお客さんも最初のお客さんと同じようでした。また別のお客さんは私が新人と知ると逆にマッサージの仕方を教えてくれたりしました。皆、善良ないいお客さんでした。
こうして私は住み込みで3週間近く風俗の仕事をして30万円余りを稼ぎ、端数のお金を残して30万円を中国にいる息子たちに送金したのでした。そして茂さんの元には、ストレートに中国から帰った振りをして戻ったのです。〉