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真実の顔
おそらく、そのどちらも、彼女にとっては正直なところなのだろうと思う。
そもそも、事件からして不可解なところは多い。理解に苦しむ。
彩香ちゃんが消えたことで、大騒ぎをはじめたのも鈴香だった。事故死扱いに腹を立てたように能代警察署に出向いては、壁を蹴り挙げるまでしている。
そして、情報提供を呼び掛ける貼紙を近隣にしてまわり、マスコミにまで登場して、娘の死は「事故死ではない」と叫ぶ。
もし、事故死でなく、真相が明らかになれば、本人が逮捕されることになる。放っておけば、いわゆる完全犯罪が出来上がって、疎ましく思っていた存在も消えて、罪に問われることもない。自分の利益だけを考えれば、黙って警察の判断に従っていればよかったはずだ。
ところが、そこに娘の死を厭う理想の母親像をかぶせる。
公判の場でも、はっきりと「極刑を望む」と自ら宣言していたはずだった。
しかし、そもそもからして、彩香ちゃんの転落を「事故」、豪憲君殺害を「心神耗弱」とするのなら、極刑判決などあり得なかった。おかしな話だった。
そうした矛盾点は検察官からも再三指摘されていた。
──主張が認められて死刑になったら、それ以上は争わない、控訴はしませんか?
「はい」
──逆に死刑でなければ、不満ですか?
「不満かどうかわかりませんが、私が主張していることが認めてもらえるなら、不満はないと思います」(11月12日公判)
そう言いつつ、取調べの違法性についても裁判で主張。取り調べが怖くて言いなりの調書が出来上がったと争う。