周りを振り回す母親
「なお、被告人に対する仮釈放の運用にあたっては、被告人の刑責が重大であることに加え、その内省が表面的にとどまるという性格特性の改善が容易でないことも十分留意されることを希望する」
この言い渡しの直後、被告人は裁判長に一言断ってから、傍聴席にいた豪憲君の遺族に向かって、いきなり、
「大事なお子さんを奪ってしまって、たいへん申し訳ございませんでした」
と言って、その場で土下座をして見せた。
ところがそれから1時間も経たないうちに、被告人は判決を不服として控訴したのだった。
その控訴審判決でも、一審判決を支持。
それでも次の瞬間にふっと浮かび上がる不満は晴れなかったようで、鈴香は最高裁に上告している。
それも、一旦は上告をしない意向を固めていたはずなのに、上告期限ギリギリの当日の午前中に検察が上告を断念したことを受けて、突如として上告することを弁護士に申し出る。突然の意思変更に、弁護人すら戸惑いを隠せなかったようだ。
ところが、それから1カ月半してこれまた気が変わったのか、鈴香本人が上告を取り下げ。無期懲役が確定している。
きっと、こんなふうにして、殺された彩香ちゃんも、たったひとりのお母さんに振り回されていたに違いない。
裁判での証言や証拠の数々が脳裏を過る。
朝「お母さんが寝坊した」と泣きながら遅刻して登校する彩香ちゃんの姿を目にしていたこと。
客が来ているからと家の外で教科書を読んでいたこと。
それが母親と付き合いのあった男性の訪問時で、吹雪の中でも外に出されていたこと。
また、衣服がいつも同じもので汚れていたことや、体臭がきつかったこと。
1年遅れで七五三の記念写真を撮った写真館では、髪がフケだらけで「お母さんがお風呂で洗ってくれない」と言ったこと。
彩香ちゃんの部屋は黴だらけで、死亡したあとも尿に塗れたシーツが敷かれっぱなしになっていたこと──。