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母親と女の同居した殺人者
公判途中のある日、ぼくは事件のあった現地を訪ねてみた。
そこで、彩香ちゃんが最後にカップ焼そばを買いに来たという近くの商店主がこんな話をしてくれた。
「彩香にとっては、鈴香しかいないんだ。嫌われたくない、だからお母さんが大好き、いつも機嫌をとってる。そんな彩香があの日に限ってサケを見たいとダダをこねるかね? それに鈴香だって鈴香なりに彩香を可愛がってた。暗くなって帰りが遅いと、ここまで迎えに出て来ていたもの。どっちも可哀想だよ……」
子どもを思う母親と、実子を疎ましく思う女の姿が同居した殺人者。
親と子の小さくて狭い世界。
橋の欄干の上から冷たいに川面に突き落とされた彩香ちゃんは、はたしてお母さんの死刑を望んだのだろうか。
被告人を「死刑」としたところで、救われない何かがずっと残っていくことは、目に見えていたような気がする。
理屈ばかりでは一線を越えられない死刑判断の難しさを知る。
ただ、悔しいとすれば、己の感情に素直であっても、子どもの気持ちに向き会えずにいた愚かな母親の姿が、目に焼き付いていることだった。