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「ご苦労さま」は目上への言葉、「お疲れさま」はチャラい流行語…正しい“敬語”の奇妙な変遷

『サラリーマン生態100年史 ニッポンの社長、社員、職場』より #2

警察官の態度が言葉の意味を変えた?

 倉持益子さんの論文では、明治時代には目上にも目下にも使えたのに、大正時代あたりからだんだん目下への使用例が増えたことがあきらかにされてます。倉持さんは、当時軍人や警察官がよく使っていたことから「ご苦労」にイバってるイメージがつき、目下への言葉と誤解されるようになったのではと推測します。

 ところで江戸時代の「ご苦労さま」は庶民階級の言葉です。武士や殿様は、そもそも使ってません。殿が家臣にかけるねぎらいは、「大儀」です。大儀であったぞ、なんて感じで。

「お疲れさま」はチャラい流行語

「お疲れさま」の正体についても疑惑が浮かんでます。2011年の日本経済新聞(10/16)に掲載された評論家川本三郎さんのコラム。ご自身の回想記『マイ・バック・ページ』が映画化されることになり、撮影現場を訪れた川本さん。舞台となってるのは1970年代の新聞社なのですが、先に帰る先輩記者に、居残っている後輩たちが、「お疲れさま」と声をかけるシーンが撮影されていて驚きました。当時の新聞社では、お疲れさまなんて言葉は使ってなかったと監督に告げると、監督も驚いて、そのシーンのセリフを変えてすぐに撮り直したそうです。

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 小さいことなのに撮り直しになるなんて、悪いことしちゃったなと川本さんは恐縮してますけども、いえ、時代考証という観点からは大事なことだと思いますよ。目上の人には「お疲れさま」というべきだ、とするビジネスマナーは、80年代に広まった比較的新しいルールであり、日本語の乱れといっても過言ではない、チャラい流行語なんです。その点にほとんどの人が気づいてないことこそが、伝統文化の軽視です。

 なぜ「お疲れさま」がチャラい流行語なのか? それはもともと芸能界だけで使われていた業界用語的なあいさつであり、一般社会ではほとんど使われていなかった言葉だから。ギロッポンでナオンとシースーみたいな? そこまで下品ではないかな。