昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「ご苦労さま」は目上への言葉、「お疲れさま」はチャラい流行語…正しい“敬語”の奇妙な変遷

『サラリーマン生態100年史 ニッポンの社長、社員、職場』より #2

 ベテランマナー講師の坂川山輝夫さんも88年『仕事に生かすキー・トーク300』で、目上にはお疲れさま、同僚と目下にはご苦労さまが一般的だと折れてしまいました。でも社内で統一されているのなら、目上にご苦労さまといってもかまわないと若干、旧世代の意地を通そうと抵抗しています。

政府の文化審議会が「お疲れさま」にお墨付きを出した

 そんな抵抗もむなしく、2006年、なんと政府の文化審議会までが、目上にはお疲れさまを使うよう勧めるとお墨付きを出したのでした。芸能界の符丁にすぎなかった「お疲れさま」は国民的マナーへと成り上がりました。

 ところが近年では、お疲れさまの乱発が逆にマナーを逸脱してるのではないかと懸念の声が聞かれるようになりました。午前中、その日最初に会ったのに、若手社員から「お疲れさまです」とあいさつされた、なんて経験はありませんか? まだ疲れてねえよ! どんだけよぼよぼジジイだと思ってんだよ! てか、午前中なんだから「おはようございます」でいいじゃねえか! なんもいわずに会釈だけでもかまわねえよ! なんなんだ、お疲れさまって!

「お疲れさま」が機械的なあいさつに

 熊本大学の登田龍彦さんは早くも2004年の論文で、学生たちが朝から「お疲れさまです」とあいさつしてくる奇妙な現象を報告しています。若者たちにとっては、お疲れさまはねぎらいの言葉ではなく、感情を伴わず敬意を払える機械的なあいさつなのです。その世代の学生はもう実社会で活躍していますから、よのなかに無意味なお疲れさまがあふれるようになったのも不思議ではありません。

©iStock.com

 ご苦労とお疲れに、もっとも頑強に抵抗してたのが、83年刊『敬語で恥をかかない本』の草壁焔太さん。ねぎらいというのは目上の者が目下の者にする行為なので、上司にねぎらいの言葉をかけてはいけない。ゆえに、目上に対するご苦労さまもお疲れさまも全否定。自分の仕事のことで上司が奔走してくれたなら、「ありがとうございました」「お手をわずらわせました」などというべきである。上司をねぎらうゆとりがあるなら、自分がもっと働け。

 かなり居丈高な印象もありますが、スジは通ってるんですよね。そもそもねぎらいとは、がんばったねー、えらいねー、と上から目線で相手をほめる行為なので、目上の人はねぎらうな、って硬派なマナーにも一理あります。マナーって、めんどくさいですね。

この記事の写真(4枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー