北朝鮮「コロナパニック」に歯止めがかからないワケ
北朝鮮のこうした極端な措置は、もはや「パニック」といっていいだろう。「ヒト・モノ」とともにウイルスが流入してこないかと相当神経質になっており、特に外部物資搬入に対する警戒心は尋常ではない。感染を恐れて、中国が提供したコメ11万トンも受け取っていないという。また、韓国からの支援物資も受け取らずにいる。8月中旬に韓国支援物資であることを隠して北朝鮮に搬入した(新義州の)税関員たちが処罰を受けた。「コロナフォビア(恐怖症)」に歯止めがかからない状態だ。
「海水に触れると感染する」「輸入品で感染する」「隔離生活中に外に出たら銃殺」……。どうして北朝鮮ではこのような「荒唐無稽」な考え方や指示がまかり通るのか。それは金一族の皇帝のような統治体制に起因している。
「コロナも怖いが…」
北朝鮮では、「元帥様は即ち、神である」ため、「神様」である金一族に誰もアドバイスや忠告はできない。金委員長の言うことは、たとえ非現実的で間違っていたとしても、助言や異議を申し立てれば、その幹部はほぼ処刑を免れることができない。
そのため、常識外の指示でもそのまま従うしかない状況になっている。「『死ぬかもしれない』コロナも怖いが『ほぼ間違いなく殺される』金正恩はそれ以上に怖い」というわけだ。
姿を消した金正恩
加えて、その肝心な金正恩の精神状態にも不安がささやかれている。
今年4月、金正恩は約20日間姿を消した。理由は様々に語られているが、大きな要因の1つは神経衰弱と不安症状によって、急に怒鳴りつけたかと思えば何も手につかないほど落ち込んだりと、感情の浮き沈みがコントロールできない症状が続いたからともいわれている。
当時は幹部たちからの報告も受けられず、妹の金与正・党第1副部長が相当部分代わって決裁していたようだ。8月に韓国国情院が、「金委員長が金与正第1副部長などと一部の権限を共有し、委任統治をしている」と明らかにした背景には、このした金委員長の状態があったのである。
制裁の長期化にコロナが加わり、想像以上のストレスで暴走に走る金正恩。権力を集中させた北朝鮮体制の副作用が、「パニック」として噴き出している。こうしている間にも、北朝鮮暴発の危機が静かに高まっているのだ。