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「北岡氏のセクハラやパワハラに異議を唱える人間は誰もいなかった」… “福祉のドン”を作った「福祉利権」人脈

セクハラ・パワハラが横行する福祉業界の「闇」#3

2020/12/06

 今年11月13日、滋賀県にある社会福祉法人「グロー」理事長・北岡賢剛氏が、2人の女性から約4250万円の賠償を求めて訴訟を起こされた。原告は、北岡氏から性暴力を振るわれ、10年以上にわたりセクハラとパワハラの被害を受け続けたと告発したのだ。

 今回の件が新聞各紙等で大きく報じられた理由のひとつには、北岡氏が障害者福祉の世界では「天皇」と呼ばれており、社会福祉の業界でその名前を知らない者はいない存在だということがある。そして、ハラスメントの被害の大きさもさることながら、加えて問題となったのは、なぜこれほど長い期間にわたるセクハラ・パワハラの事案が表に出てこなかったのかということだ。

 そこには北岡氏を中心とした福祉界の絶対的な上下関係が関係している。北岡氏は有力政治家たちとのパイプや各省庁との繋がりを利用し、国の事業採択や助成金の支給にまで大きな影響力をもっていたのだった――。(#2から続く)

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 実は取材の過程で気がかりなことがあった。

 北岡賢剛という男は政府委員の要職を引き受けるにあたり、2つの肩書きを使い分けていたのだ。ひとつは「社会福祉法人グロー理事長」。もう一つが「NPO法人全国地域生活支援ネットワーク顧問」だ。後者は業界では「全国ネット」の名前で定着している。

北岡氏が厚生労働大臣表彰を受けたことを伝える「全国地域生活支援ネットワーク」のフェイスブックのページ

国の事業採択に北岡氏が大きな影響を与える

 ある社会福祉法人の幹部は、北岡氏は2008年頃から、「グロー」と「全国ネット」をたくみに使い分けて、国の障害者芸術分野事業の採択に大きな影響力を及ぼすようになったという。

 無論、北岡氏がこの分野の先駆者の1人であることは間違いない。ただ、これらの事業採択は、表向きは公募だが、実態は明らかな出来レースだったと語る。

「北岡氏は障害者芸術の分野において、仮に実績がなかったとしても、自分の政治力の傘下にある全国ネットに名を連ねる団体を優遇して、厚労省、文化庁などの事業を政治家の力を使って採択させてきました。つまり、北岡氏に逆らえば国の事業には採択されにくい構造であることは、この分野に関わる人であれば誰でも知っています。

 社会福祉法人は老舗を除いて、地域の障害者施設の指定管理を任されるなどしなければ、その運営は財政的に厳しい法人が多い。だからこそ、どの法人も国の事業を主催したいのです。北岡氏は自分を慕う身内には情が深く、面倒見がよい一方、異論を挟む相手を徹底して排除する田舎のヤンキー気質でした」

 北岡氏は厚労省の委員をしながら、同時に同省の事業を毎年、主催していた。

 尾辻かな子事務所が厚労省に照会して入手した資料によると、この数年だけでも「グロー」、そして「全国ネット」にあわせて2億円を超える金額が国から支払われている。

 その内のひとつが「障害者芸術文化活動普及支援事業」。平成29年から令和2年までの4年間で合計、約7300万円がグローに支払われている。

国からグロー本体へは7000万円を超える補助金が出ている

 この障害者の芸術文化普及に関わる事業は、全国6つのブロックに分けられて実施される。その広域支援を担う6つの団体のうち、4つは「全国ネット」の傘下にある団体で、グローは全国レベルの活動支援の団体として、そのトップに名を連ねている。 

北岡氏が代表理事を務めたグローは各団体のトップに位置している

  そして、「2020東京大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル」と銘打ったイベントには、令和元年、令和2年の2年間で合計、約1億3000万円が支払われている。このイベントは実行委員会形式だが、その多くが「全国ネット」に名を連ねる団体が中心で、事務局はグローが担っている。

令和に入ってからでも1億円を超える額が文化庁から北岡氏の影響力が強い団体のもとへ
「障害者の文化芸術国際交流事業委員会」の構成は全国ネットの傘下にある団体が中心で、事務局をグローが務めている

 グローはこの他にも「障害者総合福祉推進事業」などを過去には主催しているので、実際には厚労省や文化庁からグローや全国ネットに流れたカネの総額は、さらに膨らむだろう。

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