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地下鉄サリン事件、死刑囚の母の“告白”「息子のことではない、別の人間だと思ってました」

『私が見た21の死刑判決』より#16

2020/12/19

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

note

家族との初めての接見

 ──反対は?

「反対はしました。今までの勉強が無駄になるという言い方をしました」

 ──平成元年3月31日に出家していますね。

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「はい。『何時に出かけるの?』と聞くと、『昼を食べてから出かける』と言うので、私も会社から帰って来て、昼御飯を一緒に食べました。それはもう悲しい気持ちで、御飯を一緒に食べるのもこれが最後と思って、赤飯を食べました」

©iStock.com

 ──赤飯を?   なぜ?

「はじめての旅立ちだと思って、食べました」

 ──送りだそうと。二人きりで?

「はい。ドアの外に出て、『もし、ぼくが気持ちいいと思わなかったら、すぐ帰ってくるからね』と。ホントにそうであればいいな、と。帰ってくることを期待していました」

 ──地下鉄サリン事件の報道で、最初はイニシャルがでましたね。

「気が付きませんでした。息子のことではない、別の人間だと思ってました」

 ──逮捕とわかった時は?

「どうなっているのか、と。何かの間違いだと思ってました。警察に呼び出されても、やったことを信じてませんでした」

 ──10月になって接見してますね。お母さん、お父さん、妹さんの3人で。

「はい。涙をぽろぽろこぼして、頭を下げてました。私が『元気だったの?』と言ったのを覚えてます。それでも健一は、ただ頭を下げてました。父親は何も言わず、妹もただ泣くだけでした」

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売

地下鉄サリン事件、死刑囚の母の“告白”「息子のことではない、別の人間だと思ってました」

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