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地下鉄サリン事件、死刑囚の母の“告白”「息子のことではない、別の人間だと思ってました」

『私が見た21の死刑判決』より#16

2020/12/19

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

note

宗教の世界へ

 ──大学では応用物理学を学び首席で卒業。総代で挨拶もしていますね。

「そういうことは聞きました」

 ──被告人は言わないのですか?

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「家に帰って、記念品として時計を頂いたとだけ……」

 ──学校のこととか、本人があまり話さない?

「そうだったと思います。ですが、親として別に関心を持たない訳ではありませんでした」

 そんな息子が、宗教の世界に関心を抱いていく。だが、親は一切そのことを関知していなかった。

 ──高校から瞑想修行をしていたことは?

「知りません」

 ──宗教への警戒心はありましたか。

「わかりません」

 ──昭和63年3月にオウムに入信した、そのことを知らなかった?

「はい」

 ──この年の秋には大手電器メーカーへの就職が内定しますね。

「会社から家へ内定の連絡があって、それで知りました。どう言っていたか、ちょっと記憶はありませんが、喜んでいたと思います」

 ──出家する、と両親に言ったのは?

「翌年、平成になってから、1月ではなかったかと思います。坊さんが出家するのと同じ、そんなことを言っていました。出家すると、7代家が栄えると、健一が言っていました」

©iStock.com

 ──出家後の生活については?

「自由に勉強、研究ができると言っていました。それと、幼稚園、小、中、高校、大学と、理想郷を作ると、そう言っていました」

 ──理想郷を作る?

「はい。簡単にそういうものができるのかな、と思ったのを覚えています」

 ──納得したのですか。

「納得はしませんでした。本人がどうしても出家したいと言うので、それも仕方ないかな、と思ったのを覚えています」