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起業への恐怖と野望

 ぼくが起業するにあたって、不安がなかったと言ったら嘘になります。

 それまでは「リクルート」という看板がありましたが、自分でベンチャーを立ち上げるとその看板は使えません。屋根のないところで生活をしなきゃいけないような感覚になりました。会社のビジネスが「鳴かず飛ばず」になる可能性もゼロではありませんでした。ただ、不安よりも「もっとやりたい」という気持ちのほうが大きかったんです。

 ぼくがリクルートを辞めたのは21年前ですから……35歳くらいのときです。

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 リクルートには、当時3つの定年制度がありました。早めの定年が2つあるのです。ひとつが入社して10年。もうひとつが40歳になったタイミングです。私の場合は40歳手前で辞めたので、ひとつめの早期定年制度を使ったことになります。

 留学をして、勉強をして、経営にも携わって、新規事業もやって……。30代半ばで脂も乗っていて、起業にはちょうどいいタイミングだったかもしれません。すごくエネルギッシュで、野望や「将来これをやりたい!」みたいな気持ちが強くありました。

 ちなみにリクルートを辞める直前は「次世代事業開発室」というところにいました。出資案件を担当したり、既存事業の見直しをしたりする部署です。当時はインターネットバブルの時代で、いろんな会社がネット系の企業に出資をしていました。そういったことに関わるなかで、世の中がどんどん変わっていくのを感じました。知れば知るほどワクワクして、その勢いもあって会社を飛び出したんです。

 

起業に失敗した人こそ筋肉質なサラリーマンになれる

「起業して失敗するのが怖い」という人もいると思います。でも、失敗も価値です。

 日本の場合は特に「失敗はダメなことだ」という固定観念が強いですよね。企業側も一度失敗した人をなかなか採用しない傾向にあります。

 ぼく自身、2回目のベンチャーを立ち上げたときはつらかったです。資金調達に行くと、履歴書を見たベンチャーキャピタルの方に「一度ベンチャーをやめて、大企業で活躍しているのに、なんで今さら起業するの?」と質問されたりしました。

 シリコンバレーや欧米では「起業して失敗したからこそ、そこで学んだことが活かされる」と考えます。しかも、起業を経験してから改めて企業に就職すると、より筋肉質なサラリーマンになれるはずです。ふつうにサラリーマンをやっていると、振り込まれる給料を当たり前に受けとります。一方、会社側の支出のことはあまり考えないでしょう。でもベンチャーで「生きた収支」の感覚を経験していると、そこまで考えて仕事をすることができるようになります。

 というわけで、「会社を辞めたい」という人は、どんどん起業してみたらいいと思います。一方で企業の採用担当の方は、ベンチャーに失敗した人をぜひ採用していただきたいです。そうやって、だれもが挑戦しやすい世界になっていくといいなと思います。